よく、新聞などに掲載されるニュースで、不祥事を起こした公務員などが「依願退職した」と流れることがあります。
悪いことをしたのだから「懲戒免職」になるかと思いきや、どうやらこのケースは違うようです。
今回は退職方法の中でも「依願退職」について説明します。
この制度を知っておくと、いざというときに役に立つかもしれません。また辞めたい場合は退職代行というサービスもあるので知っておいた方が良いでしょう。
依願退職について理解するメリットはこれ
- なぜ公務員が「依願退職」と報道されるケースが多いのか理解できます
- 「依願退職」のイメージと実際は異なることを知ります
- 誰でも依願退職する可能性があります
- 不祥事と依願退職の関係について理解できます
- 依願退職には職場からの温情が入っている場合があります
- 退職金や失業手当など損をしない方法が理解できます
目次【クリックして移動できます】
依願退職とは?意味を理解しよう
まず「依願退職」の意味を理解しましょう。
不祥事の責任を取って辞める(※)イメージが強い依願退職ですが、本来は不祥事とは関係のない辞め方になります。
退職には2つの種類がある
そもそも、ある人が会社を辞める場合、大きく分けると2つの辞め方があることを知ってください。
それが「自己都合退職」(自分の都合で辞める)と「会社都合退職」(会社の都合で辞めさせられる)です。
そして、特別な辞め方として「懲戒解雇、懲戒免職」(悪いことをしたので首になる)があります。
- 従業員が退職を申し入れて、会社側の承諾を得た後に退職する
- 従業員が退職を申し入れて、会社側の承諾を得ない中で退職する
- 会社の倒産による退職
- 事業所の閉鎖に伴う退職(例:働いていた支店などが閉鎖された)
- 解雇(人員整理など、リストラによる解雇)
- 退職勧奨に応じて行う退職(早期退職勧奨制度など)
- 懲戒解雇(分類としては自己都合退職)
- 懲戒免職(労働者が責任を負わなければならない理由、不祥事による解雇)
依願退職は自己都合退職に該当する
依願退職は「自己都合退職」の①に該当するケースです。
「辞めたい」と申し出て、職場が辞めることを承諾するケースになります。
もっとも、自己都合退職は会社がOKしなくても一方的な通告で辞めることができます。
民法627条1項の規定
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
依願退職は本来、自己都合退職の一つであり、転職したり独立開業したり、寿退職(古い)も、円満に辞めれば依願退職です。
依願退職=不祥事と誤解するのはなぜ?
しかし、「依願退職=不祥事」というイメージを持ってしまうのは、不祥事と関連付けた報道が多いからです。
公務員等の不祥事で依願退職するケースは、不祥事の結果、「減給10%」とか「懲戒処分」(始末書を書かせる)程度のもので、懲戒解雇にように暴行や殺人未遂を犯したり、1000万円横領したりしたとかではありません。
しかし、その処分(減給や始末書)を受けた人は、もうその組織で出世することもキャリアを積むこともできなくなり、一生窓際決定です。
異性問題や、痴漢(冤罪ではなく本当に痴漢した)など性犯罪系で処分された場合は、恥ずかしくてその組織にはいられないでしょう。
また、本来は懲戒解雇に該当するようなことでも、「自分で退職を願い出れば『自己都合退職』にしてあげる」と退職を勧められるケースです。
- もう恥ずかしくて組織にはいられない
- 出世の道が閉ざされた
- 本来なら懲戒免職だけど温情で
というケースで「名誉ある撤退」を選択した場合、「依願退職」と報じられ「わかる人にはわかるでしょ」ということになります。
懲戒免職になるような犯罪であれば、本名含めて報じられるケースもありますが、依願退職ならば「30代の男性警官」と、匿名性があるので、その警察官は第二の人生を比較的やり直せるんです(なぜ辞めたかは聞かれますが)。
転職活動した場合も、普通に辞めた場合と何ら取り扱いも、応募企業が持つイメージも変わりません。
警察官・自衛隊員・公立教員など公務員の辞職報道
「依願退職」でニュース検索すると、公務員(行政の公務員、警察自衛隊教員など)が不祥事を起こして依願退職したという記事がたくさんヒットします。
しかし、依願退職は自己都合退職の1つに過ぎないわけで、民間企業でも依願退職している人はたくさんいます。
では、なぜ「依願退職」したとわざわざ公務員の場合書くかというと、「懲戒免職にならなかった」という意味を強調したいんです。
あとは、民間企業社員が不祥事で辞めたことを報道してもニュース性がなく、面白くないからです。
公務員の犯罪率が民間企業社員と比べて抜きんでているということはありません。
民間企業の社員だって悪党はたくさんいます。
「本来ならば懲戒免職にすべき悪党が、公務員であることで「依願退職」にでき、のうのうとセカンドキャリアの道がある。しかも退職金ももらえる(後述)。許せない」
「民間だったら懲戒免職、懲戒解雇になっているので公務員は甘すぎる」
ということをほのめかしているんです。
ただ、実際に処分が甘いかどうかはわかりません。
公務員に限らず、自分たちより「上級」の人間が悪いことをしたのに、甘々処分で退職金をゲットして辞められる、というやっかみもここでは含まれています。
例えば、以下の記事は、公務員ではありませんが「上級」の人の依願退職の記事です。
停職、懲戒処分、懲戒解雇(クビ)、諭旨解雇について
ここではよく出てくる不祥事後の処分について解説します。
停職、懲戒処分、懲戒解雇、諭旨解雇とは
1.停職とは
主に公務員が受ける罰則です。
民間企業でも同じような規定はあります。
名称は停職のほか「出勤停止」など停学と同じように、一定期間仕事に就くことを禁止されます。
「休めてラッキー」なんて、とんでもない。その間の給料は一切支払われません。
公務員なので副業もできず、家で大人しくしているしかなく、貯金を切り崩して生活しないといけない状態です。
ここで依願退職する人も多いです。
休職が病気などで、本人の申し出で休む(休職中の手当なども出る場合あり)のに対して、停職は上から一方的に「来るな!」ですので全く違います。
2.懲戒処分とは
停職、出勤停止未満の処分です。
部下の責任を上司が取ってこれを食らうこともあり、そこまでキャリアに傷がつかないケースもあります。
処分が重い順に以下になります。
- 降格
- 減給
- 譴責(けんせき)
- 訓戒、戒告
①降格
この場合「懲戒処分としての降格」になります。
つまり、人事考課の結果(能力がないので)降格になるのではなく、不祥事のペナルティとして降格になります。
当然、降格になれば職能給などが下がるので、給料は減り、キャリアも厳しくなるでしょう。
②減給
「給料の○%○か月」減給するという処分です。
ただし、働いているのに給料の70%減給されては問題があります。
労働基準法91条で下記のように定められています。
- 1回の額(すなわち、1件の懲戒事案についての減給額)が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない。
- 数件の懲戒事案について減給処分を科す場合、その総額が一賃金支払い期において現実に支払われる賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
つまり、「減給50%7日」「減給10%3か月」とかはOKですが、「減給90%3日」「減給30%1か月」は違法になります。
③譴責(けんせき)
「始末書」、要は反省文を書いて、怒られる処分です。
反省の気持ちを示すため、しっかりと始末書を書かなければだめです。
④訓戒、戒告
口頭で社長などから怒られる懲戒処分です。
「いつも怒られているよ」と思われるかもしれませんが、組織の処分、決定として戒めを受けることになりますから、当然、人事情報として残ります。
3.懲戒免職・懲戒解雇とは
非常に悪いことをして職場をクビになることです。
懲戒免職は公務員のみ、懲戒解雇は民間も含めて使われます。
また懲戒解雇したことがバレれば、転職、再就職は困難を極めるでしょう。
懲戒解雇されたことを積極的に言う必要はありませんが、退職理由を聞かれた場合嘘も言えません。
失業手当は出ます。
- 退職金が出ないor大幅減額
- 転職が厳しくなる
のが懲戒解雇、懲戒免職の特徴です。
4.諭旨免職・諭旨解雇とは
まず、公務員の不祥事の場合「依願退職」に加えて「諭旨(ゆし)免職・諭旨解雇」という単語がよく出てきます。
懲戒免職や懲戒解雇はわかりますが「諭旨」とは一体?
懲戒処分の発展形が「諭旨免職・諭旨解雇」に該当します。
「懲戒解雇」「諭旨解雇」共に、会社側から労働契約を解除されるという面では同じなのですが、「諭旨退職」の場合、会社側の配慮で情状を酌量し「自己都合退職」に置き換えてもらえることがあります。
「諭旨解雇」では「懲戒解雇」と違い、解雇予告手当や退職金をもらえる場合が多いです。
また、履歴書にも懲戒解雇と明記する義務がなくなるので、転職活動の際、懲戒解雇ほど不利となることもありません。
- 諭旨
事の趣旨や理由などをさとし告げること。言いきかせること。
自発的に辞職するように促す退職勧奨。 - 免職
職をやめさせること。特に、公務員の地位を失わせること。(公務員は任命権者が任免するため)
となるので、
- 諭旨免職:公務員のみ
- 諭旨解雇:民間も含む
諭旨解雇を通告したのに、依願退職の選択を残す会社の意図とは
会社は諭旨解雇を通告したにも関わらず、なぜ依願退職の選択肢を残すのでしょうか?
それは、会社側にもメリットがあるからです。
諭旨解雇の場合は、30日前までに解雇予告を行うか、解雇予告をしない場合は解雇予告手当(最低30日分の平均賃金)を支払わなければなりません。
解雇予告の日数が30日に満たない場合は、その不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。例えば、解雇日の10日前に予告した場合は、平均賃金の20日分を解雇予告手当として支払わなければなりません。
解雇予告、解雇予告手当の支払いなくして即時解雇する場合には、所轄労基署長に届け出をし、認定を受ける事が条件とされています。
また、解雇に納得ができず「不当な解雇だ」と労働者から提訴される場合もあります。
不当解雇と判断されてしまった場合、新聞や雑誌、インターネットなどでも取り上げられ、企業イメージは大幅に悪化してしまいます。
辞めさせるとなった場合、会社側はできるだけ穏便に済ませたいと思っているのです。
ですので、懲戒解雇にあたるような重大な処分の場合でも、依願退職の余地を残して、諭旨解雇の通告を行うのです。
依願退職の手続きは退職届・退職願どちら?
自己都合退職するときには「退職願」「退職届」のいずれかを出しますが(※)、依願退職の場合は、一方的な退職の通告ではなく、会社の了解を得て辞める形になるので「退職願」を出します。
特に不祥事を起こして、諭旨解雇を打診されている場合、「退職届」を出して一方的に通告してしまうと、会社を刺激して懲戒解雇を誘発させかねません。
なので、この場合は「退職願」が正解になります。
※退職願については下記記事参照
退職理由は「一身上の都合」で
依願退職の場合も通常の自己都合退職と変わりません。
不祥事を起こしての依願退職も特段変わりません。
詳しくは上のリンクにありますが、図にするとこんな感じです。
理由は「一身上の都合」で構いません。
不祥事後の依願退職でも、不祥事の内容を書く必要はないです。
不祥事の依願退職の場合、恭順の姿勢を示すためにも白い無地の封筒がいいでしょう。
そうではなく、単なる自己都合退職の場合、その辺の封筒でも構いません。
不祥事の場合は誠心誠意を示して、無用な刺激を避けるため、完全にフォーマットに則った退職願を出した方がいいでしょう。
依願退職の退職願はいつ提出?
通常なら、辞めると決めた日の2週間前でいいのですが、不祥事後の依願退職の場合、温情があるうちに自己都合退職になった方が得なので、辞める腹が決まったら即「退職願」を出してしまいましょう。
依願退職の退職金は?
退職金の有無は会社によっても異なりますが、会社に退職金制度がある場合、支給条件さえ満たしていれば依願退職でも通常の自己都合退職の場合と同額もらえるはずです。
ただし、東京都産業労働局による「中小企業の賃金・退職金事情(平成28年版)」によると、約30%の会社で「退職金制度なし」という結果になっています。
会社都合退職(リストラ)や早期退職制度の場合は、退職金額が上乗せされることもありますが、依願退職はそういうことはなく、会社都合の場合より退職金額は少なくなります。
依願退職の失業保険
退職後の転職先が決まっていない失業状態の場合、一定の条件を満たしていれば、雇用保険による失業給付を受けることができます。
一般的には「失業保険」「失業手当」といった言葉が使われていますが、正確には雇用保険の「基本手当」と言い、雇用保険法に定められています。
失業給付を受けるための条件とは?
失業状態にあっても失業給付を受けるためには、2つの受給要件を満たしておかなければ失業給付を受けることができません。
- ハローワークで求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること。
- 離職の日以前2年間に、被保険者期間(※補足2)が通算して12か月以上あること。
失業給付の開始時期は?
こちらも通常の自己都合退職と同じです。
自己都合で離職した場合の失業給付の開始は、まずハローワークで求職票と離職票の提出を行い、離職票を提出した日から7日間の「待期期間」があります。
会社都合で離職した場合だと、この後から受給開始となりますが、自己都合で離職した場合は、その後さらに3か月間の「給付制限期間」があり、実際に受給開始されるのは最短3か月と7日後からとなります。
失業給付の開始をされても、実際に給付金が振り込まれるのはそこから約1か月後となり、離職票を提出してから約4か月後に現金を手にすることができるという事になります。
※自己都合退職の場合でも、正当な理由があると認められた場合は3か月の給付制限が解除される場合もあります。
理由や状況によって開始時期は異なるので、正当な理由に該当するかどうかは最寄りのハローワークで確認することをお勧めします。
筆者のいた会社でもあった「依願退職」「懲戒処分」
社員Oは、実際に行っていないのに行ったことにして交通費を不正請求していました。
それだけなら、せいぜい数千円で、まぁかなり怒られると思いますが、彼が不正請求したのが、会社の金ではなく税金だったんです。
補助金事業は交通費も補助金から出るため、数千円であっても公金横領になります。
対処を誤れば、補助金事業自体がなくなる可能性があり、かなりOに対して強気に出て、依願退職させました。
お詫びと処分についてHPに掲載したのが、年末最終日の夕方という誰も見ない時間だったのは、会社のコンプライアンス顧問のアドバイスだったそうです。
総務部長だったNは、総務部長だけが使える特別なカードを使って、私的に銀座などで豪遊し、100万円以上を使い込んでしまいました。バレて懲戒解雇になるはずなのですが、当時の上層部と「ズブズブ」だったため、温情が入り、部長から、非ライン管理職の「主任調査役」で2段階降格になりました。
しかし、「ズブズブ」なおかげで、主任調査役で何の実績も上げないのに、数年で担当部長まで戻ってしまいました。周囲も「これは許せない」という態度を示したせいか、担当部長になってほどなく辞めていきました。
こちらについては下記の記事に経緯が書いてあります。
イベントの打ち上げ代を経費で落としていいと勘違いした当時の3管理職(部長、課長2人)の行状について、私が人事課長に告発して、彼らに自腹弁済させました。
その時、3管理職は譴責処分となり、始末書を出していました。
ちなみに、社長は3か月くらい減給を自らに課しました。
ただし、年齢や障害者手帳の有無によっても変わってきますので、以下の記事も合わせて読んでみてください。
依願退職とは?正しい意味を解説 まとめ
- 依願退職は懲戒解雇と違い「自己都合退職」の1つの形である
- 「退職願」を出して、会社側の了解を得て円満に辞める体をとる
- 実際は不祥事を起こした人が「厄介払い」されて辞めるケースの暗喩である
- 懲戒解雇ではないので退職金も出るし、転職活動の悪影響にならない
- 公務員だけが依願退職するわけではなく、民間企業会社員でも普通にある
- 懲戒解雇しない変わりに辞めてほしいという退職勧奨(諭旨)が行われた結果のケースも
- ペナルティとして辞めさせられる(諭旨解雇)以外にも懲戒処分はいくつも種類がある
- 実際には不祥事を起こすとその職場にいられなくなり、退職を願い出るケースが多い
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