2018年に「働き方改革」という言葉が登場しました。
「働き方改革」とは、一般的には「残業を減らすこと」「有給休暇の取得率を上げる」というイメージを持っている方が多いと思いますが、それだけではありません。
今回はそんな「働き方改革」の具体的な内容がわかるよう、概要や全体図を画像で簡単にまとめてみました。ぜひ参考にして下さい。
働き方改革を知るメリット
- 有給休暇の消化義務など新しい働き方について知ります
- 必ずしも労働者にとってプラスのものばかりではないようです
- ブラック経営者、悪徳経営者は抜け道を探して、さらに労働強化しようと暗躍しています
- 2019年4月から順次実施されます。ご自身の 会社に当てはまるものを知ってください
目次【クリックして移動できます】
働き方改革とは?概要をイラストで簡単に紹介
我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
簡単に言うと、働き方改革とは時間外労働、有給休暇、非正規の待遇差といった問題を解決するための施策です。
働き方改革が実施された背景には、少子高齢化によって働く人が少なくなる上、今の日本は働きにくい環境になっているので、なんとか解消していかなければ国が立ち行かなくなる…というものがあります。
働き方改革で改正された法律を画像で紹介
「働き方改革法」という法律が成立したのに伴い、画像にある労働関係の法律8本がまとめて改正されました。
それを通称として「働き方改革関連法案」と言います。
改正された法律は以下の通りです。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
- じん肺法
- 雇用対策法
- 労働契約法
- 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
改正された各法律は横断的に3本柱を設けて、その実現によって働き方改革が達成されると定義しています。
即実現は難しいので、数年のインターバルを置き2020年あたりから順次実施されます。
働き方改革の総合的かつ継続的な推進(雇用対策法改正)
- 長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現等(労働基準法等改正)
- 時間外労働の上限規制の導入
- 長時間労働抑制策・年次有給休暇取得の一部義務化
- フレックスタイム制の見直し
- 企画型裁量労働制の対象業務の追加→データ不備(改ざん?)見つかり見送り
- 「高度プロフェッショナル制度」の創設
- 勤務間インターバル制度の普及促進(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法改正)
- 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法・じん肺法改正)
雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保
- 同一労働同一賃金、不合理な待遇差を解消するための規定(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)・労働契約法改正)
- 派遣先との均等・均衡待遇方式か労使協定方式かを選択(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)の改正)
- 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
- 行政による履行確保措置と裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
働き方改革の内容を図で簡単に解説!
これらの働き方改革について図で説明してみました。
上記が働き方改革の主な内容です。
以下ではそれぞれについて詳しく解説していきます。
【2019年4月から】5日間の有給休暇の計画的付与
日本人の有給休暇消化率が非常に低いということはよく知られているので、それを改善する措置になります。
年次有給休暇が10日以上付与された社員、従業員について、1年以内に5日の有給休暇を取得が義務付けられます。
有給休暇0日(全く使わない)とか、「今年は有給3日しか使わなかった」(社畜ドヤッ!)ができなくなります。
「会社に勝手に5日間有給消化日を指定される」
「有給休暇5日分夏休みが減った」
「土曜日を5日間勝手に出勤日にされ、それを有給で消化したことにされる」
上記のようなブラック企業は様々な手口で実質労働日を変えないようたくらみをしていますが、法の趣旨からして違法(不利益変更)になります。
勿論、現在も有給を勝手に消化するようなブラック企業はありますが、一定効果はあるように思えます。
休まない、休めない社畜向きの改善
「5日間は職場から勝手に有給消化日を決められる」と早合点している人もいますが、ずっと有給休暇強化率が80%など、会社から「○日に休め」といわれる前に5日以上有給休暇を使っている人はそのまま自分のペースで休んで大丈夫です。
これは休めない、まったく有給休暇をとらない社畜を強制的に会社が休ませる制度です。
4月1日から半年経過後に、1日も有給休暇を取っていない人などに、会社が「この日を休みなさい」と5日間指定するイメージです。
【2019年4月から順次】残業規制:1か月45時間・1年間360時間
サービス残業や過労死ラインの残業を是正するための残業規制も2019年4月1日から実行されます(中小企業は2020年4月1日から)。
これまでも「36協定」などで残業規制を設けていましたが、まったく守られないのでより規制の度合いを高めました。
1か月45時間以上の残業、時間外労働は「違法」です。
また、45時間労働を1年続けると500時間を超えますので、1年間の制限360時間以上となり、こちらも「違法」になります。
ここで日本的な考えとして、ブラック経営者や社畜は数字をごまかすためにサービス残業をするわけですが、無論サービス残業自体が違法です。
1か月45時間、あるいは1年間360時間を超えた残業についてもきっちり申請できるので、罪はしっかり経営者に被らせてください。
もちろん、労働基準監督署に垂れ込むのも推奨です。
組合と協定を結んでいる場合は例外
ただし、労働組合と経営者側が36協定内で特別条項(オプションのようなもの)を結ぶことで、上限を引き上げることができます。
・1か月の労働時間上限100時間(年間6回まで)
・年間の労働時間720時間
「過労死ライン(1か月80時間以上残業)」を合法化するものとして批判もありましたが、法律として通ってしまいました。
あくまで組合と経営者の協定が前提なので、協定がない場合は「1か月45時間、年間360時間」が絶対的な残業の上限になります。
また、特定の業種(新事業開発、建設業、バスやトラックの運転手、医師・看護師)はこれらの規定から除外されました。
ただ医師の残業時間については現在も過労死ラインを超えている方が大量にいるため、業種によっては効果が薄いのが現実です。
※医師の残業「月155時間まで」了承 厚労省、適用期限を法律に明示へ|弁護士ドットコム
また、国も医師の残業は「1か月155時間」「年間1860時間」まで認めるそうです。死ねと言っているのに等しいです。
「こんなのおかしい!」とは思いますが、特定の業種は労働時間に規制をかけると日本社会が回らなくなるので仕方ないらしいです。
【2023年4月から】中小企業に対する月60時間を超える法定時間外労働に対する割増賃金の猶予措置の廃止
実は毎月60時間を超える残業の場合、超えた分の残業代は「時給×1.25」(通常の残業単価)ではなく、「時給×1.5」で計算することになっていました(守られない会社多いですよね)。
つまり、ある人が70時間残業し、時給2000円の場合
「(2000×1.25×60)+(2000×1.5×10)」=150000+30000=180,000円 が残業代になります。
実はこの「時給×1.5」は大企業のみで、中小企業は免除されていた(「当面の猶予」で60時間を超えた分も時給×1.25でOK)のですが、2023年4月1日からは同様に60時間を超えた分は「時給×1.5」を支払わなければならなくなります。
【2019年4月から】「残業代タダ」という批判もある「高度プロフェッショナル制度」
「残業代タダ」「定額使いたい放題」と批判された「高度プロフェッショナル制度」も2019年4月1日から実施されています。
これは「勤務時間」「労働時間」の概念を外し、個人事業主に近い形にすることで1日の勤務時間を撤廃する仕組みです。
当然「残業」もなくなり「残業代」もなくなるので、人によってはかなり悲惨な事になります。
シンクタンクや研究所のコンサルタントや、証券アナリストなど大学の先生のように自分のペースで自分のやり方で仕事をする人のうち、以下の条件を満たす人に適用されます。
高度プロフェッショナル制度の適用条件
- 年収1075万円以上
- 満18歳以上で、制度適用について同意した者
- 労使協定で、高度プロフェッショナル制度の導入をOKする
- 1年104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日
- タイムレコーダー等により、事業場内にいた時間および事業場外において労働した時間(健康管理時間)を把握すること
(以下はそのうち1つが該当すること)
・勤務と勤務の間に11時間以上の休息時間(インターバル)を確保する。かつ、1か月のうち深夜業(夜勤)は4回以内
・1週40時間を超える健康管理時間が1か月100時間、3か月240時間を超えないこと
・1年に1回以上の継続した2週間の休日(労働者の請求により2回以上の継続した1週間の休日)を与えること(年次有給休暇を除く)
繰り返しますが、この人たちには残業代は1円も出ません。
後述しますが、この制度が10数年前に出てきたときは、経団連等が「すべての年収400万円以上のホワイトカラー」に適用させようと画策していました。
実質ホワイトカラーは残業代なしで死ぬまで働け!という財界の意向(本音)が見事に反映されていました。
今回はガチガチに用件を狭めましたが、この要件は法律ではなく「厚生労働省令」で変えられます。
つまり国会での議決を経ないで勝手に変えられるんです。
今は大丈夫、と思っていてもいつの間にか「年収500万円以上、あらゆる業種」になってしまうかもしれないので他人事ではないです。
【2019年4月より】フレックスタイム制の拡充
これまで「1か月」の間で勤務時間、労働時間の調整ができた(=清算期間)フレックスタイム制ですが、法改正によって清算期間が「1か月」から「3か月」に拡充されました。
つまり1月にたくさん働いた場合、これまでは残業代の支給が必要でしたが(1か月内で清算)、2019年4月からは1月~3月の3か月でどのくらい働いたかが問題になっています。
例えば1月に多く働いた場合、2月や3月に持ち越して2月や3月はコアタイムの勤務だけでいい(つまり遅く来て早く帰る)こともできるようになります。
出典:フレックスタイム制 のわかりやすい解説 & 導入の手引き|厚生労働省
働き方改革が必要な理由を簡単に解説
日本が世界でも類を見ない少子高齢化社会が到来するから
現在、日本では約4人に1人が65歳以上のお年寄りです。
この年齢でも働く人はいますが、年金をもらって隠居生活に入る人も多く、体力的にも働くことを強いることができません。
しかし2060年には2.5人に1人がお年寄りになると言われていますので、働き方改革によって若い世代が働かなくては経済が崩壊します。
さらに少子化もハイペースで進行していて、現在の出生率は「1.43」(※)となっており、今後さらに進行して「1.35」まで下がると予想されています。
出生数 最少の94万6000人 出生率1.43、2年連続低下 |日本経済新聞
晩婚化、収入が増えない、価値観の多様化など様々な原因がありますが、このままいくと若い世代だけでお年寄りを支えられなくなります。
労働力人口が減少するから
このままいけば少子化で若い世代が減り、お年寄りが増えていくので、働ける年齢(労働力人口:15歳~64歳)は大きく減少していきます。
そのため、働きやすい環境を作り労働力を確保するという目的から、働き方改革が実施された一面もあります。
・労働力人口の定義
- 労働力人口:15歳~64歳で働く意思のある人。つまり、学生、主婦、ニートなどは含まず
- 生産年齢:15歳~64歳のすべての人(働けれるける年齢の人)
いずれにせよ、高齢化が進めば働く人が減っていきます。
「身の丈に合った経済を構築すればいいじゃないか」と思われる方もいますが、人口ピラミッドはいびつで若い世代が少ないのでそう簡単にはいきません。
ベビーブーム世代や団塊ジュニア世代が死ぬまでは、下の若い世代が多数いる老人世代を働いて支えないと立ちいかなくなります。
時間外労働、長時間労働の多さを改善するため
有名ですが、日本は世界の中でも韓国に次ぐくらいの長時間労働をしています。
過労死や長時間労働によって心身を病む人が続出しています。
恒常的な長時間労働によって出会いもなく、結婚もできず、子どももできず、子どもも産めず、子どもを育てられずという人は多いです。
しかも長時間労働をしている年代は30代~40代で、結婚、出産、子育てをするべき時期と重なります。
そのため、働き方改革により早急に子育て、つまり将来の労働力人口を確保する必要があります。
労働生産性が低いから
日本の場合、長時間労働とセットで「だらだら残業」「だらだら仕事」をする傾向にあるため、それを改善したい狙いも働き方改革にはあります。
「労働生産性」とは労働者1人あたりで生み出す成果、または労働者が1時間で生み出す成果を数値化したもので、日本の労働生産性は世界の中でも下位になります。
逆に労働生産性が高いのは欧米諸国です。例えば10ある仕事を欧米は5時間でやっているのに、日本は10時間かかっているイメージです。
人間の集中力も体力も長時間持続しませんのでだらだらやらざるを得ないということもありますが、職場の雰囲気で「帰れない」「残業するほどに評価される」ということがあります。
また、経営者の中にも業績は労働時間に比例するという「盲信」をしている者が少なくありません。
ちなみに筆者のかつての上司も夕方17時くらいになると「さぁ、これから頑張るぞ!」と言っていたので、こんな人間が周囲にいれば労働生産性が下がるのも当然です。
日本は正規雇用、非正規雇用の差が大きいから
日本は非正規労働者の数が多い割に待遇も低い傾向があるため、それを改善する目的も働き方改革にはあります。
例えば非正規雇用社員の収入(時給)は、正社員の時給換算賃金の約6割だと言われています。
ヨーロッパでは非正規雇用の時給は正規雇用の8割ほど、アメリカでは雇用が不安定な代わりに非正規の方が給料が上というケースもあるので、日本は正社員と非正規社員(パート、アルバイト等)の格差がかなり大きいと言えるでしょう。
日本は正規雇用だから良いワケでもない
一方、日本は正規雇用の社員は給与に見合わない様々な業務の責任を負わされたり、サービス残業を強いられることも多いです。
また、全国へ転勤させられたり、一方的に出向させられるなど、会社に奉仕を強要されます。
これでは能力はあるものの、子育てや介護中の労働力人口が正社員を選びづらく、この点も働き方改革の必要性を高めています。
平均給料が下がっているから
また、ご存じの方も多いかと先進国の多くは給料が上がり続けているのに対し、日本は給料が横ばい~下がり続けています。
そのため、昭和の時代に一応世の中が回っていた「男は外で働き、女は家庭を守り」というモデルが立ちいかなくなっています。
これも働き方改革を推し進める理由の一つです。
既に「女は家にいろ!」という一方的な価値観はなくなりつつありますが、実際に家事や育児、介護を担っているのは女性が多いです。
おかげでただでさえ労働力人口が足りていないのに、30代~40代で女性の就業率が下がる「M字」は改善されません。
そして外で働く男性は少子高齢化の埋め合わせのために残業代も出ず馬車馬のように働かされて、まったく家事に参加できません。
それにより少子化は進み、子供を育てる余裕もないという負のスパイラルに陥ってしまいます。
女性はキャリアか子供を諦めなくてはいけないから
女性の場合、いまだに「出産か仕事か?」(さすがに「結婚か仕事か?」は減りましたが)を社内で迫られることが多く、キャリアと子どもどちらかをあきらめなければならない人も多いです。
日本は他の先進国のようにキャリアと子育ての両立ができないのも少子高齢化の一因なので、女性のキャリア改善も働き方改革の目的の一つと言えるでしょう。
個人の能力も発揮できず、少子化も進み、より現役世代に負担が来て・・・とまったくいいことがありません。
これを解消するための一連の取組みが「働き方改革」になります。
働き方改革を導入している企業の事例
では、最後に働き方改革を実際に導入している企業を、事例と共にいくつか紹介したいと思います。
1.株式会社Zaim
Zaimの「働き方改革」 バリからリモート、6時出社で15時退社、仕事と育児の両立もOK|弁護士ドットコム
家計簿アプリなど財務会計ソフトを制作している会社です。
フレックスタイム制やリモートワークを組み合わせることで、本当の意味で「柔軟な働き方」を実現しています。
子育てをしながら朝6時~15時まで勤務している人もいます。
また、海外旅行中にリモートワークで「ぶつ切り勤務」をすることもできます。雨でホテルにとじ込められている時に「出社」できるというのはお得です。
2.LIFULL FaM
「子どもが一緒にはたらける環境づくり」で 新しい女性の働き方を実現 株式会社LIFULL FaMが 「鯖江市ワーク・ライフ・バランス賞」を受賞
東京に本社があるコンサルティング会社ですが、福井県鯖江市に「サテライトオフィス」を持っています。女性が働きやすい労働環境を整えていて
- サテライトオフィス内に保育士常駐の保育室の設置
- 育児の状況に合わせて雇用形態を正社員・契約社員・業務委託から選択できる
(業務委託の場合「労働時間」はなく仕事が終わればすぐに帰れます) - 在宅勤務を含め柔軟にシフトが組める勤務日時制度
など、痒い所に手が届く制度を設けています。
3.USEN
スーパーフレックスタイム・希望者全員を対象にテレワーク勤務を実施 自身の裁量で週休3日や在宅勤務も可能に
音楽の有線放送の老舗USEN(株式会社 USEN-NEXT HOLDINGS)では「Work Style Innovation」と名付けられた働き方改革を実践しています。
大きく分けて以下の2つが柱になっています。
- コアタイムがない「スーパーフレックスタイム制度」
- 在宅でもカフェでもOKの「テレワーク」
子育て中の人が午前中だけ出社して、子どもを保育園から連れて帰宅し、午後は在宅勤務という働き方もできます。
良くも悪くも、大企業は昔の因習にとらわれているのかもしれません。
働き方改革の問題点や悪用の事例
これによって「働き方改革」が実現し、労働力も増え、みんなが生き生きと輝けるようになればいいのですが、賛否両論の内容もあり、かえって労働環境が悪化するという指摘もあります。
問題の点をいくつか指摘したいと思います。
時間外労働の規制で残業隠しが横行
100時間を超えても超えた分は請求しなければなりませんが、社畜は忖度して申請しない可能性が高いのです。残業80時間が「過労死ライン」だという厚生労働省の基準があります。しかし、80時間~100時間を「合法」としてしまったわけです。
時間外労働時間の上限は月45時間かつ年360時間が原則となります。
しかし、規制が強化された事で逆に一定以上は残業しても残業したことにならない「残業隠し」をする企業も出ています。
また、「100時間までなら残業OK」と解釈する企業が増え、過労死の危険がある残業まで「お墨付き」を与えてしまっているかもしれません。
残業90時間を数年間続けた結果、脳疾患を起こして亡くなった場合の違法性などの課題もあるでしょう。
今後、多くの社員に残業代が支払われなくなる
中小企業は条件を満たすと、月60時間を超えた残業の賃金割増率は大企業よりも低かったのですが、中小企業への猶予措置を廃止し大企業と同じ50%以上となります。
それはいいのですが、問題は先程も軽く触れた「高度プロフェッショナル制度」です。
「高度プロフェッショナル制度」とは、年収1075万円以上、本人が同意していること、年104日以上かつ4週で4回以上の休日取得などを条件に、残業しても残業代を払わなくてもいい制度です。
労働時間の定めもなくなります。
プロフェッショナルならば自分の仕事は自分で管理できるのだから、管理職のように時間で管理しない働き方を導入しよう、という意図です。
もちろん、金額を下げたい意図は政府関係者などから聞こえてきます。そもそも、この制度を提唱した経団連は、最初「年収400万円以上のホワイトカラー全員に適用すべき」と訴えていました。
つまり、新卒数年未満の若手以外のホワイトカラーには残業代を一切払わずに搾取しよう、それを合法化したい!という意図がありありでした。要は、20代からすべて「名ばかり管理職」にして、経営には携わらせず、徹底的に搾取したいのが経営者連中の考えなんです。
派遣社員が当初は、システム開発や通訳など、本当にスキルが必要な職種だけだったのが、なし崩し的に一般事務職まで拡大された再現を狙っているはずです。
働き改革どころか、さらに金銭的に追い詰められる可能性もあり要注意の項目だと思ってください。
もちろん、この制度の陰には「フリーターは終身雇用!」とのたまった「死の奴隷商人」竹中平蔵が暗躍しています。
参考:「正社員はいらない」“煽る人”竹中平蔵とは何者なのか?|文春オンライン
残業代の出ない教師と同じ現象が会社員にも起こる
実はこれとほぼ同じ制度が、公立学校の先生(教諭)に導入されています。
「給特法」(「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」)によって、公立学校の先生は、他の公務員と比べて基本給が4%高いのですが、何百時間残業しても残業代は1円も支払われません。
これと同じことが、あらゆる職場で起きるかもしれません。
学校の先生がどれほど追い込まれているかはご存じのとおりですよね。
制度の適用には「本人の同意」が必要ですが、日本の社畜が拒めるでしょうか?
同一労働同一賃金で正規雇用の待遇を下げる
非正規労働者の待遇改善のために、仕事内容や配置転換などが正社員と同じ場合、給料(賃金、時給)や休暇、福利厚生など同じ待遇にしなければならない義務が企業に課されました。
実際に正規雇用の人の待遇が下げられる兆候が出ています。
正社員の待遇下げ、格差是正 日本郵政が異例の手当廃止|朝日新聞
多くの会社で同一労働同一賃金を悪用すれば、正社員も徹底的に搾取され没落してしまいます。
肥え太るのは経営者ばかりで、企業によっては搾取の「口実」を与えてしまったのかもしれません。
仕事内容などが違うがある場合も、不合理な格差は禁止されます。
例えばコピー取り=時給1000円の人がいるのに対し、コピー取り+ほとんど鳴らない電話番で時給1500円の人がいる場合は明らかに不合理ですよね。
このように待遇に格差がある場合、企業は労働者に内容や理由を説明しつつ待遇の格差も改善しなくてはいけません。
就業規則を変更し有給の消化義務を悪用
有給休暇には「計画年休制度」という、会社が労働者代表との労使協定を結び、各社員の有給休暇のうち5日を超える部分について、あらかじめ日にちを決めてしまう制度があります。
つまり、有給が12日の人は12-5=7日はあらかじめ日にちを決め、残りの5日は自由に使えるということです。
ゴールデンウイークの飛び石埋めや、お盆休みをこれによって消化させる企業は少なくありません。
有給休暇の消化義務もそれに近い形で、こちらは形式上有給休暇を強制消化させるのです。
しかしブラック企業は就業規則をいじって(もちろんブラック企業なので勝手に)、「5月~9月の第二土曜日は出勤日とする」として、その出勤日5日を「有給強制消化日」にすることで合法的に消化させます。
しかもこの方法なら労働者が自由に使える有給休暇も減らせるので、搾取をする上でプラスに働くことになります。
まだまだ突っ込みどころはありますが、このくらいにします。
法律の趣旨に則った運用がなされれば「働き方改革」になり、ワーク・ライフ・バランスも賃金も向上し豊かになり、少子化も解消され、労働力人口も増えます。
しかし抜け道が多く、ブラック企業の経営者の場合は悪知恵が働くので、労働者にとってマイナスになるリスクが「働き方改悪」にあることを意識してください。
もし今働いている企業が悪用しているのであれば、即転職活動をするのをおススメします。
働き方改革とはまとめ
- 働き方改革は少子高齢化で労働力人口が減る切羽詰まった状態で行われる
- 労働関連の法律を8本改正して実施する
- 「残業を減らす」「有給休暇を取得する」「同一労働同一賃金」「女性やシニアが働きやすい環境整備」が柱となる
- 抜け道も多く悪用されればかえって労働環境が悪化するかも
- 自社の様子をチェックして、悪くなりそうなら転職をしましょう
今回は働き方改革について解説しました。
基本的には労働者のための改革なのですが、悪用しているブラック企業も多いのが現実です。
そのような企業にいても間違いなくろくな事はありませんので、早めに転職をしましょう。