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逆に言えば、「できない」とされている人であっても「その会社にいる限り、いついかなる場面でも使えない」わけではない。噂の元になった上司との相性が悪かっただけかもしれないし、育て方にクセがあるだけで、一度伸ばし方を掴めばぐんぐん成長できるかもしれないからだ。本稿では「仕事ができない人」自身の能力を改善しつつ、チーム全体へもよい影響を与える方法を、つたない私の経営経験からお伝えしたい。
仕事ができない人3パターンに合わせた対策
まず「仕事ができない」と十把一絡げにくくるのをやめ、大きく3パターンに分類する。そのうえで各タイプへの対応策を列挙した。
1.できることと、できないことの差が激しい人
小学校のころから「国語はできるけれど算数は壊滅的」といった、科目でできる・できないのハッキリした子はいなかっただろうか。たとえば上記のタイプにとって、細かい計算業務は鬼門である。だが社会人になり、配属の不運で経理部門に就いてしまうかもしれない。そうなるとこの人は「仕事ができない人」扱いを受けてしまう。
もっとやっかいなのは、相手の心情をおもんばかったコミュニケーションを取るのが苦手なケースだ。ある会社では、女性社員がバレンタインにチョコを男性社員へ贈る風習があった。そしてホワイトデーのお返しを、新入社員が担当することになっていた。しかし新入社員はバレンタインチョコが高価なことを知らず駄菓子をお礼にしてしまい、総すかんを食らった。こういった風習があることが時代遅れなのはさておき、この手の空気読みイベントでの減点は社会人として致命傷となりやすい。
【対策】
このタイプへできないことを責めても改善する可能性はほぼない。それよりも最初は得意なことを任せたほうがよい。算数が苦手で経理に入ってしまったなら、計算業務から外し他部署との差し戻しや交渉を一任することもできる。一度達成感を味わえたら、徐々に苦手な業務をお願いしてみると「ステップアップ」を意識して挑んでくれるだろう。
2.パワハラ耐性が弱い人
パワハラが取り上げられるようになって久しく、多くの企業ではほとんどパワハラを見なくなった。だがパワハラ耐性が他の社会人より低い方は「ナイーブすぎる」と腫れもの扱いを受けてしまう。
実際の相談例では、ある日突然出社しなくなった社員がいた。その理由を聞いてみると「もともと院で勉強するのと並立して勤務する約束で雇用されたが、残業せず18時に退社する自分は陰口を言われている。それがつらいので出社できない」とのこと。当人の前でけなされることはなかったそうだが、職番の責める雰囲気に耐えきれず退職した。
【対策】
社員がパワハラを訴えたときは、柔軟な制度を作るチャンスと心得たほうがよい。上記の例では「大学院へ通う社会人」という特殊例だったが、同様のプレッシャーを育児や介護をする社員は抱えているかもしれない。会社に慣れれば慣れるほど「ワガママすぎる。使えないくせに」と言いたくなるのが常だが、むしろ多様性を求める人にとって使えない会社になっているのではないかと、恐れを抱くべきはこちらの方である。
3.プライベートを優先したいため、モチベーションが低い人
この数年、就活の相談を聞いていると「ワーク・ライフ・バランスを重視したい」と述べる学生の比率が上がっている。しかし現場ではそうもいかないだろう。クライアントへ手抜きをせず時間を費やすのが尊いとされる職場では、残業をしないことが「仕事ができない」評価へ直結する。
それでも仕事ができていればいいのだが、ライフを重視するあまり仕事の成果を下げる社員もいる。「クビにならない分だけ働けばいい」という考え方である。他の2タイプはストレスを理由に退職する率も高いが、モチベーションが低い社員はむしろ最後まで雇用されようとする。他の社員にとっては、長期的にストレスを感じやすい相手だろう。
【対策】
問題があるのは社員ではなく「ライフを重視するあまり仕事ができなくても給与がもらえるシステム」だ。評価制度を変えよう。基本給よりボーナスの比率を上げ、ボーナスをあらかじめ定めた数値目標で配分する。成果があいまいな努力ではなく、数字で明確にされていることがカギとなる。やる気のない社員も「ここまでは数字を残そう」とライフを充実させるために成果を出してくれるはずだ。
出来ない人が頑張ると、周囲の起爆剤になる
「できない社員」をケアする必要はなぜあるのか。周囲の起爆剤となるからである。できない社員へ徹底的に寄り添い、長所をほめて指導する。そうすると「できない社員」ができるようになる。
他の社員から見れば、これまでできない社員がいてくれたから「これくらい手抜きをしてもいいや」と思えたボトムラインが上がることになる。できない社員を伸ばすことは「あいつがこんなにできるなら、もっと頑張らないと」と他の社員も頑張るきっかけになるのだ。人はできる社員を見ても自分とは違うとしか思わないが、できない社員ができるようになると、自分が怠けているように感じるからである。
だからこそ、できない社員は大事にしたほうがよい。実はあなたの会社でできない扱いを受けている人こそが、チーム全体の成功を握るキーパーソンなのだから。