患者の在宅復帰を手助けする存在「回復期リハビリテーション」病棟における看護師の業務内容と役割とは
病院の病棟勤務というと、急性期の患者を看護するイメージが強いですが、近年、回復期の状態にある患者を対象にした「回復期リハビリテーション病棟」も増加しています。これは2000年に新しく誕生した病棟で、2013年現在、全国で1486もの病棟が誕生しています。この回復期リハビリテーション病棟は、患者のスムーズな在宅復帰へ向けて、大変重要な役割を担っています。そしてそこに勤務する看護師は、患者がリハビリによって日常生活に十分な活動量を回復できるよう、ケアする役割があります。
回復期リハビリテーション病棟とは
生命の危機を脱した状態の人が病前の生活へ戻るためのリハビリ
リハビリには、発症した直後の「急性期」、症状が安定してきた「回復期」、その後スムーズに日常生活に戻れるようにする「維持期」があります。その中で回復期リハビリテーションは、「急性期(生命の危機や手術直後の全身状態が不安定な時期)を脱したものの、障害が残存している状態の患者や、体力の低下によって病前の生活に戻れていない患者を対象にしたリハビリテーション」のことです。
近年は回復期リハビリテーション専門の病院も誕生
それを行う「回復期リハビリテーション病棟」は、2000年から10年かけて全国的に病棟設置や整備が進められてきました。最近では回復期リハビリテーションを専門とする病院も誕生しています。その結果、2013年1月末現在、回復期リハビリテーション病棟がある病院は1187病院、病棟数は全国で1486病棟、65570床にまで数を増加させています。また、2012年の診療報酬の改定では、回復期リハビリテーション病棟の看護配置が15:1から13:1に、正看護師の比率が4割から7割に、夜勤看護師は2人以上置くことが義務づけられました。このような流れからも、国をあげて回復期のリハビリに力を入れていると考えられます。
その背景にあるのは、「団塊の世代」が今後、後期高齢者へ突入していくという事情が影響していると考えられます。リハビリ病棟の患者は、脳梗塞や脳卒中による脊髄損傷を起こしている患者、整形外科疾患、廃用性症候群というケースが多いです。そして今後高齢化が進むことにより、さらにこうした疾患を持つ患者が増加すると考えられます。そこで、より健康で長生きできる社会を作るために、たとえ何かの病気を発症したとしても、この回復期リハビリテーションによって日常生活へ復帰できるようにすることが必要なのです。
具体的に行うリハビリは、自宅に帰りたいとは思っても障害が残っていて退院出来ない患者に対し、集中的なリハビリを行って障害の改善を図り、ADL(日常生活動作)の自立を目指すというものです。そのため、こうした病棟・病院では、リハビリテーションの専門医を始め、看護師や、実際のリハビリに関わる理学療法士や作業療法士、言語聴覚士、あるいは医療ソーシャルワーカーなどの専門職が協力し、チームを組んで患者の治療にあたります。
回復期リハビリテーション病棟で勤務する看護師の業務内容と役割とは
意識の中心は「リハビリ」に置いて行動する
回復期リハビリテーションの患者に対して行う看護は、病態観察、服薬管理、身の回りのお世話など、基本的には急性期の患者と同様のケアを行います。ただ、急性期のときのような生命の危険がある不安定な時期は脱しているので、頻回に様子をチェックすることは少なくなるかもしれません。
では両者の最も大きな違いは何かというと、回復期リハビリテーションにおいては、看護の意識が「リハビリ」に置かれることです。例えば、バイタルチェック一つをとっても、今の状態はリハビリを安全に行える状態か、事故につながりそうな予兆はないか、ということを中心に考え、状態確認を行います。これは、回復期リハビリテーションでは一日3時間ほどの長時間をリハビリに充てることになるからです。
そのため看護師は常に、患者の様子を見て、リハビリがスムーズに行える状態かどうかを確認する必要があります。そして万が一異常が見られた場合はすぐに担当医や他のリハビリスタッフと連携し、その日の運動量を調整します。
一見、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が主になって患者をケアしているように思われがちですが、リハビリの訓練は一日3時間ほどです。だからそれ以外の時間は看護師が24時間体制で見守り、ケアすることになります。
理想は患者のADLの質を「日常的に行える」ラインまで引き上げること
リハビリは理学療法士や作業療法士らと行う時間だけがリハビリではありません。その目的は、患者が自宅へ戻ってから不自由なく生活できることが理想にあります。だから、リハビリの時間以外の、トイレに行く、あるいは食堂へ行く、入浴するといった行為の一つ一つが患者にとってリハビリとなります。「ADL(日常生活動作)」と呼ばれるものです。
看護師は回復期リハビリテーションを行っている患者に対して、このADLの自立を助けるため、必要以上の手助けをしないことも意識を置く必要があります。患者が自分自身で出来ることを尊重し、出来ないことだけ手伝うようにします。また、積極的にベッドから出て、トイレや洗面など、移動するよう勧めます。
特に高齢者の場合、ベッド上で全ての日常的な動作を済ませがちになったり、転倒の不安からじっとしていることが多いです。しかしそれでは逆に身体機能を弱め、体力低下や生活能力のダウンを引き起こしやすくなります。それは家族の介護負担を増加させることにもつながります。
だから看護師には、病棟生活の中でできるだけ患者の活動量を増やすことが重要な役割になります。それがひいては回復のきっかけに繋がり、ADLのラインを「頑張ればできる」のではなく、「意識せず、日常的に行える」ところまで引き上げることにつながります。
急変に注意し、常に他スタッフのパイプ役になること
回復期に入ったとはいえ、患者によっては容態が急変する可能性もあります。例えば誤嚥性肺炎や、睡眠不足、麻痺の悪化や、褥瘡、排せつリズムの不安定などが起こり得るケースとして考えられます。そうした患者の異変に対し、勤務する看護師は常に気を払う必要があります。
そして、万が一そうした異変が起こった際は、すぐに他スタッフにカンファレンスなどを通して情報共有を行い、協力し合うことが大切です。それ以外の場面でも、看護師は医師や他スタッフとのパイプ役になるなど、マネージャー的存在として働くことになります。
患者やその家族とのコミュニケーションをとること
もう一つ回復期リハビリテーション病棟に勤める看護師として重要なことは、患者やその家族とコミュニケーションをとることです。回復期リハビリテーションを行っている患者やその家族は、今起こっている障害に対して将来的な不安を抱えていたり、長期入院からくるストレスや孤独感を感じていることが多いです。
急性期病棟だと、どうしても検査や処置、点滴など行わなければならない業務に追われ、患者の家族とゆっくりと話をする時間がないことも多いですが、回復期に入れば時間的余裕は生まれやすいです。だからそうした患者や家族の心配や不安に対し、耳を傾け、精神的なサポートを行えるよう努める必要があります。
そのために大切なことは、患者のペースに合わせることです。話し方をゆっくりとしゃべるのはもちろん、場合によってはメモによる筆談や、ジャスチャー、表情を使って、コミュニケーションを取ることが大切です。そうして心を尽くすことが、患者の社会復帰にも繋がる可能性があります。
回復期リハビリテーション病棟で働くメリット・デメリット
医療業務は少なくなる反面ナースコールが増えることもある
回復期リハビリテーション病棟で勤務する場合、急性期に比べると点滴や注射といった医療行為を行う回数は減りやすいです。しかしその分、ナースコールが増える可能性は高くなります。これは、例えば脳卒中による障害が出ている患者が、トイレに行きたいと思った時「転倒したらどうしよう」と不安になって、看護師を呼ぶ、というようなケースが起こりやすくなるからです。特に夜間のナースコールが増える傾向にあります。
こうした医療行為を行う機会が少なく、反対に患者の身の回りのお世話をする機会が増えることに、人によっては物足りないと感じる可能性はあります。また、回復には個人差があり、成果が見えづらいこともやる気や張り合いにつながりにくい、というケースもあるようです。また、病棟なので交代制勤務となり、夜勤をしなければいけないことが、家庭を持つ人にとってはデメリットになる可能性もあります。
しかしその反面で、一人一人の患者と比較的ゆったりと時間を持って接することができるのは、回復期ならではのメリットと言えます。さらに、急性期ではあまり関わることのない、理学療法士や作業療法士といったリハビリ担当の専門職とチームで働ける機会が得られることも大きな経験となるでしょう。そうしたチームの中で、看護師は自然とパイプ役やマネージャー役となる場面も増えるため、自分の持っているスキルを活かせるチャンスも生まれます。
回復期リハビリテーション病棟へ転職する際のポイント
回復期リハビリテーションの病棟の数は今後も増加すると考えられ、それに伴い求人の情報も増えると見込まれます。そのため、もし回復期リハビリテーションの病棟へ転職したいと考えるなら、しっかりと情報収集するためにも、看護師専門の転職サイトを活用されることをおすすめします。こうした専門サイトであれば、病院ごとに異なる特色も把握しやすく、且つ担当のアドバイザーなどに相談することも
できるため、より自分の希望に見合う求人を見つけやすくなるからです。
回復期リハビリテーション病棟は患者の「在宅復帰」をサポートする存在
看護師にとっては医師や他専門職と連携できることで大きな経験にもなりやすい
回復期リハビリテーション病棟は、生命の危険のある不安定な状態を脱した患者が、在宅復帰へ向けて日常生活をスムーズに送れるようリハビリを行う、という目的の病棟です。看護師は急性期の患者と同じように24時間体制で見守り、看護ケアを行いますが、その目的は常に「リハビリ」に置き、ADLの自立をサポートします。そうすることで、患者のQOLを高めることにもつながります。
一般的な急性期病棟に比べると、回復期リハビリテーション病棟では、看護師は医療行為よりも見守りや身の回りの介助をすることに重点を置くことになりやすいです。そのため、医療スキルを磨くというよりは、一人ひとりの患者とゆっくり向き合って対応する時間を増やせると考えられます。また、回復期に入ったとはいえ、患者の容態が急変することもあります。そのようなときは、担当医や理学療法士や作業療法士らと情報を共有しつつ、連絡役になるなど、マネージャー的存在としても重要な役割を担います。そしてこうした他専門職と連携して医療に携われることが、回復期リハビリテーション病棟に勤める最大のメリットになると考えられます。