今後需要が増加する「訪問看護」における看護師の業務内容と役割について
近年、日本は急速に少子高齢化が進み、増加する高齢者をすべて収容できるだけの医療機関が用意できない事態に陥っています。
この深刻な事態を打開するために、現在、国は自宅療養を実現する訪問介護の推進を行っています。それにより、訪問介護に対応できる看護師の需要が急激に高まり、訪問介護分野での人材不足が深刻化しています。
高齢化社会により訪問看護求人は売り手市場
このことは、訪問介護に対応できる看護師の雇用条件や給与水準を好転させることに繋がり、現在、訪問看護の業界は看護師の売り手市場といってよい状況にあります。
そのため、好条件の求人を目にする機会が増え、訪問看護業界への就職・転職を希望する看護師も増加傾向にあるようです。
本記事では、訪問看護における看護師の役割や業務内容、メリットデメリットをご紹介しますので、転職・就職を検討中の方は参考にしてみて下さい。
訪問看護における看護師の基本的な業務
訪問看護師の担う役割
訪問看護師は、自宅療養を行う患者を医療、生活の両面からサポートし、患者とその家族が安心して治療にあたることができる環境作りを行うという役割を担っています。
訪問介護は医療機関での入院治療と異なり「患者、医師、看護師、薬剤師、リハビリスタッフ」といった面々が、それぞれ異なる場所に存在します。そのため、医療機関と患者を繋ぐ訪問看護師の重要性は、かなり高いものとなっています。
コミュニケーションスキルや臨機応変な対応が求められることも
訪問看護師の仕事は、医師の指示書に沿った医療行為が主体だというイメージが強いのですが、実際には業務の幅は広く、臨機応変に動くために必要な柔軟性や判断力、医師と患者との間を取り持つためのコミュニケーションスキルや状況把握能力、観察眼など、多様なスキルや特性が求められます。
訪問看護師の主な業務
訪問看護師の基本的な業務には次のようなものがあります。
健康チェック
- バイタルチェック
- 本人、家族からのヒアリング
日常生活のサポート
- 生活リズムの調整、指導
- 着替えやヒゲ剃りなど身だしなみを整えるサポート
- 療養環境の整備と保全
- ベッドや車椅子への移動介助
- 食事、入浴、排泄介助
- マウスケアの実施と指導
医療処置
- 点滴、インシュリン注射、カテーテル交換などの医師の指示書に沿ったケア
- 本人、家族への服薬指導と管理
- 人工呼吸器などの医療機器の管理と保全
- 自宅療養の生活サポートとアドバイス
精神ケア
- 本人、家族にストレスチェックとケア
- 治療やリハビリに対する意欲を高揚させる対話
- 散歩、会話、マッサージなどのストレス緩和処置
リハビリ指導
- 日常生活動作のサポートと訓練
- 転倒、転落を防止するための環境作りとアドバイス
- 拘縮予防と機能回復のための指導と訓練
認知症ケア
- 生活リズムの調整
- レクレーション
- 脳トレなどの学習療法
- 家事分担などを通した行動療法
- 思い出を掘り起こし脳を刺激する回想法の実施
ターミナルケア
- 点滴、薬剤投与、酸素吸入などの医療処置
- 疼痛管理
- 死に対する恐怖心を緩和するメンタルケア
- 介護家族に対する精神面のケア
- 家庭での看取り準備に関するサポート
以上は、患者の自宅における主な業務ですが、訪問看護師は所属する訪問看護センターや医療機関で次のような業務も行います。
訪問看護ステーション、医療機関での業務
- 訪問看護に必要な機器や書類の準備と確認
- 医師に提出する訪問看護計画書、訪問介護報告書の作成
- 医療チームスタッフとの連携、連絡、報告、相談
- 予定の確認とスケジュール調整
訪問看護で働くメリット
勤務先によっては日勤、週休二日を実現できる
勤務する訪問看護センターや医療機関、介護施設によって異なりますが、訪問看護師のワークスタイルは、基本的に日勤、土日休みの週休2日制となっています。
加えて、あらかじめ1日の訪問件数や訪問時間が決まっているため、スケジュール管理さえ十分に行っていれば、残業時間を少なくすることも可能です。
訪問看護は給与水準が比較的高い
訪問看護師は基本的に日勤となるため、病院勤務と比べると勤務時間、拘束時間が短くなる傾向にあります。それにもかかわらず、給与水準は病棟看護してそれほど変わらないという特徴があります。
病棟看護師の大きな収入源となる夜勤手当がない訪問看護師が、なぜ同等の給与水準となっているのか。これは、在宅看護業界が深刻な人材不足であるために売り手市場にあること、訪問看護師には夜勤手当に代わる時間外手当やオンコール手当などが充実していることが関係しています。
ただし、パート勤務の場合は、勤務先によって時給に大きな差があるので要注意です。パート勤務の訪問看護師の場合、時給平均は1800円程度とされています。しかし、上は4000円から下は1000円といったように、時給の幅が大きいため、パート勤務希望で求人情報をチェックする際は時給の相場よりも「業務内容に見合った報酬が得られるか」という点を重視することをおすすめします。
仕事と家庭を両立しやすい
訪問看護師は基本的に残業や夜勤に対応する必要がないため、プライベートの時間を確保しやすく、家庭優先の働き方を実現することも可能です。
また、短時間労働が可能な勤務先も多いため、子育て中でも仕事と家庭を両立しやすいという特徴があります。労働時間を管理しやすい、拘束時間が短いという点は、大きなメリットだと言えるでしょう。
独立して個人事業主として開業することができる
訪問看護師としての経験は、将来的に訪問看護ステーションを開業し、独立する場合に大きく役立ちます。
看護師資格は就職や転職にはとても強い資格ですが、この資格を活かして独立し、経営者として活躍できるチャンスはそれほど多くありません。
それだけに、訪問看護ステーションを開業できるというメリットは、看護師にとってとても大きなものだと言えるでしょう。
訪問看護で働くデメリット
訪問のための移動が大変
訪問看護業界では、看護師の移動に(電動)自転車が用いられるケースが大半となっています。そのため、真夏や真冬、大雨や大雪などの悪天候時の移動が非常に大変、というデメリットがあります。
どれだけ悪天候であろうとも、自宅で待っている患者を待たせるわけにはいかないため、びしょ濡れになっても自転車をこげる!といったガッツがある方でないと常勤は辛いと考えられます。
勤務先によっては、事業所の自動車や看護師自身のマイカーで訪問先を回れる場合もありますので、自転車での移動が厳しいと感じる場合は、求人へ応募する前に自動車での訪問が可能かどうか確認しておくことをオススメします。
雇用が不安定な事業所が多い
訪問看護ステーションの多くは小規模事業所のため、雇用条件や給与体系が経営状態や法改正に影響しやすいという問題があります。そのため、病院勤務と比較すると雇用の安定度が低く、福利厚生が不十分というケースも少なからず見られます。
また、小規模のステーションや施設の場合、最低限度の人員しか配置できないことが多いため、看護師一人あたりの訪問件数が許容数を超えるといった問題も散見されます。
結果、業務が多忙となる、担当患者一人一人に十分な時間がかけられないなど、勤務先によっては看護師が悩みを抱えやすい労働環境である可能性があります。
オンコール対応を任せられる場合がある
訪問看護師のワークスタイルは、基本的に日勤、週休二日制となっていますが、勤務先によっては持ち回りでオンコール対応を任されたり、休日出勤を課せられたりする場合があります。
プライベートや家族との時間を最優先に考える場合は、求人情報を収集する段階で、オンコール対応や休日出勤の有無をしっかりとチェックしておきましょう。
訪問看護師として働くまとめ
高齢化社会を迎え、訪問看護に対応できる看護師の需要は今後もますます高まりを見せることが考えられます。
しかしながら、現在日本看護協会による「訪問看護入門プログラム」など、訪問看護師育成の取り組みが活発化しており、訪問看護師の数は微増していくという見方が強まってきています。
訪問看護師の増加は、現場で申告となっている人員不足を解消するという点で非常に喜ばしいことではありますが、一方で好条件の求人の減少を招く要因ともなり得ます。需要に供給が追いつけば、現在の「訪問看護師の売り手市場」が解消されるのも当然ですよね。
それだけに、訪問看護業界への就職・転職を検討するなら今!という状況にあります。訪問看護師に興味がある、訪問看護分野への就職、転職を検討しているという方は、看護師専門の求人サービスや求人サイトなどを活用し、早めに条件の良い求人情報を収集しておくと良いでしょう。