「期間工は光熱費や居住費がかからず稼げるからいい!」とよく言われます。
確かに、期間工として働く人がいないと、トヨタやホンダをはじめとする自動車産業や、様々な機械メーカーが成り立ちません。
だからこそ、稼げるように「優遇」しているのですが、それなら一種の「契約社員」である期間工よりも、本当の正社員になった方がより稼げるのではないでしょうか?幸い、期間工からの「正社員登用制度」というものがあります。
今回は、期間工から正社員になると変わること10選!をはじめ、期間工と正社員の待遇面などの違いについて解説していきます。
目次【クリックして移動できます】
期間工の正社員登用率と登用試験の難易度
期間工で一定期間働いて、その評価がいい場合、上司に申し出ると「正社員登用試験」を受けることができます。
例えば「トヨタ自動車」の場合、一年以上働き、上司からの推薦を受けた後、正社員登用試験に申し込むことができます。試験は一年に四回あり、四月、七月、十月、一月に行われます。
何度も申し込みたいところですが、トータルで二回までしか受けられません。それでダメな人は、残念ながらトヨタの正社員としては・・という判断になります。
受験倍率は約四倍、下記の記事とトヨタHPによると登用率約7%になります。
- 期間工:約4300人
- 正社員登用 2017年:316名
- 登用率 316÷4300×100=7.3%
参考リンク:トヨタ、期間工の正社員登用3割増 16年度の採用計画
トヨタの正社員登用試験は筆記と面接
トヨタの正社員登用試験は筆記と面接で筆記は中学校程度の国語と数学になります(SPIに近いようです)。面接が大切なのは言うまでもありませんが、人となりは期間工として評価されているわけで、トヨタ社員として、トヨタが求める基本的な学力も判断されるのでしょう。
ちなみにトヨタ自動車の正社員登用率は低い方で、他の企業だと10%~20%近いところもあります。「TOYOTA」ブランドの正社員プレミアムチケットは、やはり、そう簡単ではないということなのでしょう。
期間工正社員登用の面接と試験内容
試験内容は主に筆記試験と面接です。筆記試験はSPI(数学、国語、英語)レベルの問題が多いです。ほぼ学生のときに勉強した内容なので、心配な方はSPI対策の問題集を事前に勉強しておくといいでしょう。
面接は、職歴・自己PR・志望動機・正社員になってからやりたいことなどを聞かれることが多いです。
期間工から正社員になると変わる違い10選!
1. 給料が正社員一年目の月給になる
2. 昇給があるから年収が高くなる
3. 雇用期限がなくなる
4. 仕事内容が変わる
5. 雑用や社内行事へ出ないといけない
6. 寮が変わる可能性がある
7. 福利厚生が良くなる、社会保障の切り替え手続き
8. 正社員の責任、残業が増える可能性がある
9. 各種手当が変わる
10. 出世できる可能性がある
1. 給料が正社員一年目の月給になる
正社員になると、期間工のときと「俸給表」が変わります。期間工は「期間工としての月給」が定められていますが、正社員になると、おそらく「正社員一年目の月給」になります。
一般的に「期間工としての月給」>>「正社員一年目の月給」で、明らかに手取り月給が減っているのがわかります。
<ある会社Aの期間工と一年目正社員の月給比較>
- 期間工:300,000円
- 正社員:250,000円
もちろんずっと期間工のときの方が給料がいいわけではなく、正社員五年目くらいで追いつき、それ以降は逆転します。
A社の場合、二年目以降年間一万円ずつ「昇給」していくので、五年目には並ばれてしまいます。
期間工はいつまでもできるわけではない不安定な仕事ですが、正社員になれば定年まで勤められます。年功序列がなくなり実力主義に変わってきてる、と言われますが、製造業の現場社員はそういう賃金体系にはなっていません。
長年の働きに報いる給与体系になっているので、もし皆さんが20代~アラサーであれば、正社員に登用された方が圧倒的に得です。
2. 昇給があるから年収が高くなる
月給ベースでは、正社員になった当初は期間工よりも少ないのですが、年収で考えると、それよりも早い段階、2年目~3年目で期間工時代に追いつくことが多いようです。
<ある会社Bの期間工と一年目正社員の「年収」比較>
- 期間工:3,780,000円
- 正社員:3,920,000円
B社は一年目なのに正社員のほうが「年収ベース」では高いですね。
その理由は何といってもボーナス!
「満了金」や「お祝い金」というものではなく正式な「賞与」として月給の半年分(以上)出るわけですからこれはでかいです。もちろん、ボーナスは業績を反映するので年によって上下があり得ますが、業績が悪くボーナスが減るような事態になれば、期間工を削減するはずです。
<業績がいい場合>
- 正社員→ボーナス増
- 期間工→「満了金」などが若干増える
<業績が悪い場合>
- 正社員→ボーナスが減る
- 期間工→募集自体がなくなる
期間工は「契約社員」であり、身分保障は正社員には及びません。「次の契約は更新しません」と言われればそれで終了、期間工もその身分であり、〇〇手当どころではありません。
3. 雇用期限がなくなる
期間工の場合は「35か月まで」(2年11か月)という制限がありますが、正社員になれば当然雇用期限はなくなり「定年まで」となります。
クビになる可能性がゼロかと言われると、本人が何か悪いことをしてしまうなど(懲戒解雇)可能性はあるのですが、期間工を募集しているメーカーならば、労働組合も強いはずなので、リストラを行うには相当なハードルがあると思ってください。。
4. 仕事内容が変わる
期間工の仕事は、メーカーの工程の最前線、組み立てそのものを行う仕事ですが、正社員になれば経験とともに工程管理や工場の責任者になる可能性があります。最初の数年は期間工とほぼ同じ仕事が基本ですが、どんどん社内の地位も上がり、より複雑な仕事を担当する可能性があります。
期間工では一つのライン(組み立てなら組み立て、鋳造なら鋳造)だけやっていればよかったのですが、将来的に管理監督する可能性がある以上、複数の工程を覚える必要があり、業務負荷は確実に増します。あと、あまり可能性はありませんが、工員以外の仕事をするかもしれません。正社員になれば会社の指示で違う部署に配属になる可能性があります。
工場での現場経験を生かして、「営業」(製品を自分で作っていたので詳しい)、「人事労務」(工場の労働に詳しい)、「商品企画」(実際に組み立てをした立場から、より作りやすい製品を探求)、このような仕事をするかもしれません。現場の声はメーカーの生命線ですからね。
別の仕事を一切やりたくない、自分は工場でラインだけをしていたい。正社員になると、そういうことを押し通せなくなります。
5. 雑用や社内行事へ出ないといけない
期間工のときは、自分の寮に引きこもっていればよかったのですが、正社員になると、よくも悪くも「日本のサラリーマン」になります。
- 労働組合への加入とその仕事
- 社内の親睦イベントへの参加
- 部署の忘年会、歓送迎会、新年会、暑気払い・・
- 新人が行う部署内の雑務
こうしたものの圧力が来ます。
文系正社員だとまず逃げられませんが、工場で働いている人はある程度避けられるとは思います。ただ、古い体質の会社(まさに自動車、機械メーカー)はそういう社内行事が多いのは事実です。
そうした空気の中やっていけますか?そういう風土、体育会系の空気が大丈夫な人は波長が合うかもしれません。「義務ではないが社内行事へのプレッシャーがかかる」と思ってください。
6. 寮が変わる可能性がある
期間工の場合は「専用の寮、食費以外の寮費は全部会社持ち」が基本でしたが、正社員になるとそれが変わる可能性があります。
メーカーによっても異なりますが住環境については大きく変わる可能性があります。
- 期間工の寮ではなく社員寮になる
- 寮ではなくマンションやアパートに住む
- 寮費がかかる
- 寮ではなく、住宅手当が出るので自分で探す
正社員のほうが自由度が高い、ともいえるのですが、自分の責任で日常生活を送らなければならなくなります。
「会社が用意してくれた寮で働くだけ。費用は会社持ち」の期間工に慣れている人は、予想外に生活費がかかり時間の余裕もなくなるかもしれません。
7. 福利厚生が良くなる、社会保障の切り替え手続き
期間工も「健康保険」「厚生年金」については直接雇用の契約社員の場合、問題なく加入できますし、法律で定められた「会社との折半」(保険料や年金の半額は会社が出す)も受けられます。ただし、正社員になれば、会社の負担率が上がり(二分の一以上になり)、より自分で支払う社会保険料が減るかもしれません。
期間工の場合、契約期間が終わると「健康保険」→「国民健康保険」、「厚生年金」→「国民年金」への切り替えをその都度行わなければなりませんが、正社員になればずっと正社員なのですから切り替えること自体がありません。
また、福利厚生についても、正社員のみが受けられるものがあります。期間工もある程度の福利厚生が受けられますが、正社員だけが加盟できる「福利厚生プラン」や保養所などもあります。
ちなみに、筆者が会社勤めをしていた時は、正社員はディズニーランドの割引年間パスポートがもらえましたが契約社員にはそれがありませんでした。
8. 正社員の責任、残業が増える可能性がある
正社員になれば、派遣社員や契約社員よりもいろいろな責任ある仕事が生じ、何かあれば最後まで責任をもって仕事をしなくてはならなくなります。期間工ならば「今日はこのくらいで帰っていいよ」という日も、正社員はもっと残って仕事をしないといけないかもしれません。
ホワイトカラーだとサービス残業の問題がありますが、ブルーカラーなのでその点は安心できるのですが(つまり残業代は全部しっかり払われる)、期間工時代と比べて時間外労働が増える可能性があります。
工場の機械や設備にトラブルがあった場合、解決まで対応し帰れないのは正社員です。「正社員の責任」というものは予想以上に大きいのだと意識してください。
9. 各種手当が変わる
給与体系が変わるので、もらえる手当も変わります。
「満了慰労金」「満了報奨金」「赴任手当」などがなくなり、代わりに「役職手当」「管理手当」「住宅手当」などになります。一時金ではなく、毎月の給料に上乗せされる手当が経験年数とともに増えていきます。
もちろん、正社員になれば正式な「退職金」も勤務年数に応じて出ます。どちらかと言えば「お客様」扱いされていた期間工時代と比較して、正社員は会社の構成員としてどういう貢献ができたのか、それを手当や前提となる役職で評価されることになります。
10. 出世できる可能性がある
最後、正社員になれば出世の道があります。「そんなの大卒総合職だけじゃん」と思っていますが、メーカーの場合現場からの「たたき上げ」が経営者になることも珍しくありません。
そこまでの出世は難しいのかもしれませんが、期間工のままでは一生現場作業員ですから、もっと広いフィールドで活躍して偉くなりたい、という人は正社員を目指してみるといいでしょう。
期間工から正社員になるために必要な4つのポイント
- 正社員登用率が高い企業に期間工として入社する
- 面接時に正社員を目指していることを伝える
- なぜその企業の正社員になりたいのか志望動機を明確にしておく
- 期間工採用後に職場での評価を上げる努力を行う
1. 正社員登用率が高い企業に期間工として入社する
入社する時点で、正社員登用率の高い企業に期間工として入社しましょう。
正社員登用率の高い企業は、トヨタ・マツダ・アイシンAWが有名です。
2. 面接時に正社員を目指していることを伝える
期間工の採用面接の時点で、正社員を目指していることを伝えましょう。企業によっては、期間工中に正社員向けの研修を受けさせてくれるところもあるようです。
3. なぜその企業の正社員になりたいのか志望動機を明確にしておく
「なぜその企業の正社員になりたいのか?」、「正社員になったらどのような仕事に取り組みたいか」などは面接でも聞かれることが多いです。
自分がどうして正社員になりたいのか志望動機は明確にさせておきましょう。
4. 期間工採用後に職場での評価を上げる努力を行う
正社員試験(筆記試験・面接など)の結果がよくても、実際に働いていた現場での評価が悪ければ正社員になれないこともあります。
職場で評価をあげる具体的な方法
・遅刻・早退・欠勤が少ない
・適度なコミュニケーションを取る
・積極的に仕事に取り組む
基本的な事ですが、このようなことを頑張ると評価があがりやすいです。
有期雇用契約の期間工はあくまで「調整弁」
期間工はお金が貯まり、下手な会社(ブラック)で使い倒されるよりもはるかに待遇がいいのは事実ですが、期間工をしている会社の正社員と比較すると、責任や雑務の面では楽ですが、将来的な稼ぎや生活の安定を考えると断然正社員です。
正社員登用制度がせっかくあるのですから、これを使ってみないのは本当にもったいないです。冒頭の新聞記事リンクで「業績が良く人手不足なので期間工を増やす」というものがありましたが、逆に考えると「業績が悪くなれば期間工を減らす」ということです。
正社員は解雇しにくいが期間工は増やしたり減らしたりが主目的
正社員を解雇しにくいのが日本の特徴ですが、期間工の場合「次回更新しないから」で終わりです。期間工はメーカーの「調整弁」「バッファ」であり、ここを増やしたり減らしたりしながら正社員の待遇を守っている、というのが真実です。
「期間工は金の卵」だと言われますが、丁寧に孵化させて雛から育てることはせず、卵焼きにされて終了かもしれません。より丁寧に育成されるのは、当然正社員であることは意識してください。
期間工から正社員登用試験にチャレンジするのも一つの選択
正社員になれ、というわけではなく、期間工として短期にお金を稼いで、自分がやりたい仕事へ転職するのもOKです。ただ、ひたすらいろいろな会社の期間工を続けるくらいならば、正社員登用試験にチャレンジして有名メーカーの正社員を目指しても面白いのではないか、ということです。
正社員に登用されれば、100%混じりっけなしの完全な有名メーカーの正社員です。有名大卒でも簡単に落とされるその会社の正社員に、学歴等を問われずに、仕事の評価でなれるんです。
正社員になるメリット、デメリットを比較していただいたうえで、是非とも検討してみてください。
期間工から正社員になるメリット・デメリット
期間工から正社員への転換は、多くの労働者にとって重要なキャリアステップとなります。この選択には、さまざまなメリットとデメリットが存在します。以下に、それぞれのポイントを詳しく解説します。
メリット
- 雇用の安定性
- 昇給・昇進の機会
- 福利厚生の充実
雇用の安定性
期間工は契約期間が定められており、最長でも2年11ヶ月の雇用となります。一方、正社員は無期雇用契約となり、定年まで安定した職場で働くことが可能です。
昇給・昇進の機会
正社員は年功序列や成果主義に基づき、定期的な昇給や昇進のチャンスがあります。これにより、長期的なキャリア形成が期待できます。
福利厚生の充実
正社員としての雇用は、社会保険や退職金制度、各種手当など、充実した福利厚生を享受できる点が魅力です。
デメリット
- 給与の変動
- 責任の増加
- 勤務地や勤務時間の変動
給与の変動
期間工は高い基本給や各種手当が魅力ですが、正社員登用後は初任給が下がる場合があります。しかし、長期的には昇給やボーナスにより、収入の増加が見込めます。
責任の増加
正社員は業務上の責任が増し、成果や業績に対するプレッシャーが高まることがあります。
勤務地や勤務時間の変動
正社員は会社の都合により、転勤や部署異動、勤務時間の変更が生じる可能性があります。これにより、生活環境やワークライフバランスに影響を及ぼすことがあります。
正社員への転換を検討する際は、これらのメリットとデメリットを総合的に考慮し、自身のキャリアプランやライフスタイルに合わせた選択を行うことが重要です。
まとめ
期間工から正社員への転換は、雇用の安定性やキャリアアップの機会を得る大きな一歩となります。正社員としてのメリットには、昇給や昇進の可能性、安定した収入、充実した福利厚生などが挙げられます。一方で、責任の増加や勤務地の変更、勤務時間の柔軟性の低下といったデメリットも考慮する必要があります。自身のキャリアプランやライフスタイルを踏まえ、正社員登用の道を選択することが重要です。
- 期間工を採用しているメーカーには「正社員登用制度がある」
- 社員登用率は多くて20%弱
- 正社員登用の際は筆記と面接の試験があるところが多い
- 期間工として働いた内容も評価される
- 正社員になるとすべてがメリットばかりではない
- 見かけの月給は一時的に下がるが正社員は昇級するので数年で逆転する
- 待遇的には正社員一択だが、正社員になれがより重い責任や仕事以外の雑務も発生する
- 配置転換や好きな工程ができなくなる可能性も正社員にはある
- 期間工は「調整弁」であり、リストラは正社員ではなく期間工から着手される
- とは言えご自身の価値観、生き方次第。正社員が100%正解ではない