【ヤマト運輸】パワハラ自殺で遺族が提訴!配送業界の実態とは?

2017年3月、運送業大手のヤマト運輸を相手取り、元従業員の家族が裁判を起こしました。
この裁判の焦点は、パワハラによる自殺という過酷な現実。
配送業界では超大手と言ってもよいヤマト運輸が、なぜこのような裁判を起こされたのでしょうか。
そこには配送業界の厳しい現実があるようです。
今回は、配送業界のパワハラの実態やその過酷な労働環境などに迫ってみたいと思います。

ヤマト運輸はなぜ提訴された?パワハラ自殺事件の概要

配送業界の超大手、ヤマト運輸はなぜ提訴されたのでしょうか?
今回のパワハラ自殺の概要をまず整理してみたいと思います。

ヤマト運輸パワハラ自殺・事件の背景

ヤマト運輸の長野県内のある営業所で、40代の男性従業員が自殺。

男性は46歳で妻子あり、平成元年にヤマト運輸へ入社していました。
長野県内の営業所でドライバーとして勤務し、平成15年には営業所のセンター長へと昇進。
しかしその後、平成23年に今回の被告とされる男性がセンター長へと就任すると、男性への暴言や暴力が目立つようになったとのことです。
一度センター長へと昇進したものの、その後後任のセンター長にポジションを奪われる形になっていたというわけですね。
定かではありませんが、営業成績などの関係でセンター長から降格になり、後任のセンター長から標的にされてしまったという感じなのでしょうか。
もしくは、ドライバーのほうが時間的な融通が利くため、プライベートを優先してあえてポジションを下げたという可能性もあります。

ヤマト運輸のパワハラの具体的な内容は?

自殺した男性がうけたパワハラの内容は、かなり熾烈なものです。
後任のセンター長からは「その場でたたき殺すぞ」「組合でも何でも泣きつけ」「半身不随にでもしてやろうか」などという、人格否定以上のもはや「脅し」ともとれる言葉を浴びせられたといいます。ちなみに、これらは実際に録音されています。
また、実際に殴るなどの暴行をうけており、これら肉体的、精神的な圧力が原因となって「うつ病」を発症しているという事実もありますからね。
このうつ病が自殺の直接的な原因になったと、遺族側は主張しています。

自殺した男性はなぜここまで追い詰められたのか?

これについては、具体的な報道がなされていないのであくまでも推論になります。
前述したように、自殺した男性は一度センター長になるものの、後任のセンター長にその地位を奪われる形になっています。
つまり、会社の評価的には決してプラスではなく、営業成績などの理由からマイナスの評価を受けていたのではないでしょうか。
これ自体は仕方のないことですが、人柄が真面目だったりおとなしかったりすると、マイナス評価を必要以上に深刻にとらえてしまいます。
会社に対して負い目を抱いてしまうわけですね。
この負い目に付け入られる形で、後任のセンター長からのパワハラを我慢してしまったと考えるのが妥当ではないでしょうか。
年齢的にも46歳と簡単に転職ができる年ではないですし、長年勤務した実績もあります。
どうにか辞めずに耐えようという意識が働いたのかもしれません。

パワハラ上司(被告)の上司は何もしなかったのか?

運送業界では営業拠点を取りまとめるセンター長が、実質的な現場の指揮官です。
つまり、現場ではセンター長が事実上のトップであり、その上司は現場にあまり顔を出さない、もしくは不在であるという実情があります。
また、一説によるとこのパワハラ上司の上司(支店長)は、あまり部下に強く指導できるタイプではなく、実質的なリーダーであるパワハラ上司に対しても
同じような態度だったのではないかという見方もあります。

自殺に至るまでの男性の心理・行動について

前述したように、自殺した男性はパワハラによってかなり追い詰められています。
うつ病を発症しつつも、暴言を録音し、暴行を受けたあとの写真なども残していることから、何らかの対策にでようと考えていたことは確実でしょう。
しかしその対策に打って出る前に、自殺にしてしまいます。
大っぴらに外部に訴えることもできず、かなりつらい精神状態だったと推測できます。
職場のパワハラ・セクハラ問題は相談者がいたり、問題を扱う窓口があったりすればそこへ駆け込むのが通常ですが、そういった行動もなかったようです。

ヤマト以外にもある配送業界のパワハラ問題

実は運送業、配送業界はこういったパワハラ問題が起こりやすく、度々世間から問題視されています。
2016年にも佐川急便で、当時22歳の男性従業員が自殺し、労災認定されたという事件がありました。
この男性従業員は、2010年に佐川急便に入社。
その後ドライバーではなく経理担当などの事務職で勤務していましたが、直属の上司からエアガンで撃たれる、つばを吐きかけられるといった
酷い暴行を受け、うつ病を発症してしまいます。
その後、自宅で制服姿のまま首をつって自殺しているところを発見されました。
ドライバー以外の事務職でもこのような勤務実態があるということは、やはり配送業界全体にパワハラの温床があると考えて良いでしょう。

従業員を取り巻く過酷な勤務実態

ではなぜ、配送業界ではここまでパワハラが蔓延してしまうのでしょうか。

それは、配送業界を支配する古い体質が深く関係しています。

配送業界は完全に体育会系の縦社会です。

つまり、昔ながらの「先輩・上司の言うことは絶対」という雰囲気があります。

もちろん、会社や営業所によって差はあるものの、基本的には体質が古いのです。

こういった体質は、プラス面にでれば統率された組織や着実な配送業務などにつながりますが、マイナス面にでれば「後輩いびり」「後輩いじめ」につながるもの。

また、体育会系の縦社会ではどうしても理論理屈よりも精神論が優先されやすいことから、少々体調が悪くても勤務を強要されるという慣習があることも否めません。

過酷な勤務実態も?

こうしたパワハラが起きやすい土壌に加え、ドライバー、倉庫作業などの従業員を取り巻く過酷な勤務実態もあります。
ドライバーは基本的に朝7時には出社し、夜9時ころまで配送に追われることも珍しくありません。
もちろん、あまりにも勤務時間が長くなりすぎる場合はシフト勤務などで対応しますが、繁忙期にはそれもままならないでしょう。
さらに天候の影響(大雨や大雪)によって交通事情が悪化すれば、当然それを巻き返しつつ配送しなくてはなりません。
筆者の友人が、学生時代にヤマトでドライバーのアルバイトをしていましたが、とてもアルバイトとは思えないような過酷な勤務時間でした。
繁忙期になるとほぼバイト付で、深夜にアパートへ戻ってきていたのを覚えています。
ネットの発達によって個人向け宅配の量が増えましたから、現在は当時よりも配送料が増えているでしょう。

また、倉庫内業務もなかなかハードな現場です。
これは筆者が実際に経験したことがあります。
深夜もしくは早朝に集荷された荷物を仕分け、翌日の配送に間に合わせるわけですが、まず量が半端じゃないのです。
決められた時間までに仕分けを終わらせる必要がありますが、日によって荷物の量は大きく変わります。しかし、与えられた時間は同じです。
時には、どう考えても不可能な量の荷物が集まることもあります。
こういったとき、休憩時間を返上してひたすら荷物を仕分けることになりますが、軽い荷物ばかりではない上に、壊れ物も多数ありますからね。
体力も神経も相当使う仕事です。数時間ぶっ続けで荷物を仕分け続けるということも珍しくありませんでした。
なかには気の荒い作業員もいて、半ば荷物を放り投げるように仕分けることもありましたね。
それでもドライバーよりは楽かなと感じていました。
運転する作業がないですし、なんだかんだと時間内で作業は終わりです。結局はドライバーさんが配送に出るまでの間限定の忙しさですからね。
しかし、やはり続く人は少なく、頻繁に人手を募集しているのは今も当時も変わりないようです。

もしパワハラでつらいと感じたら……?

パワハラは決して我慢してはいけません。
そもそも、個人の問題ではないからです。
個人の問題ではないものを、個人が抱え込めば、最悪の場合は負担の大きさから精神や肉体に異常をきたし、今回の事件のような結末になってしまいます。
そこで、パワハラを受けていると感じたら…以下のような行動がおすすめです。

一人で抱え込まずに相談しよう

相談窓口がある場合はすぐに匿名で通報する

コンプライアンスを重視する企業の場合、パワハラやセクハラ、アルハラに対応する専門の窓口を設けています。
ここに匿名で通報することにより、関係者に対する調査が入るのです。
これは犯人や原因を特定するには至らずとも、抑止力となる効果があります。
実際に筆者もサラリーマン時代、誰かが酒席での女子社員に対する上司の行動に不満を感じ、通報したことがあります。
結果的に、その飲み会に参加した関係者全員に個別面談が実施されました。
結局犯人探しなどはされませんでしたが、以後かなりの期間、飲み会は自粛となって女子社員を無理に呼びつけることはなくなりました。

社外の相談機関に駆け込む

例えば厚生労働省では、「心の耳」というサイトを開設して、パワハラ関係の相談を受け付けています
もちろんプライバシーは守られますし、あまりにも悪質な場合は有効な手段を教えてくれることもあります。

労働問題に強い弁護士に相談する

労働問題が増えている近年は、パワハラやセクハラ、アルハラなどを専門に扱う弁護士が相談を受け付けています。
今回の事件用に悪質かつ証拠がある場合、弁護士に相談したほうが早いかもしれません。

それでもつらいときは…?

パワハラで受けた精神的な傷は、問題が解決したからといって消え去るわけではありません。
時には「退職」「転職」といった対応も必要です。
これらは決して逃げではなく、「自己防衛」なのです。
この自己防衛という感覚をまず、しっかりと認識してください。
我慢は美徳ではありませんし、逃げは恥でもありません。
まずは自分を危険な場所から遠ざけ、それから対策を講じるといった方法を選択していきましょう。
仕事は世の中に星の数ほどありますが、命と健康はひとつです。
パワハラという悪質な労働問題を一人で抱え込むことはせず、しっかりと自分自身を守ってあげてください。
たとえ40代、50代であったとしても新しい環境で働くことは不可能ではありません。
転職サービスが充実している昨今は、プロのサポートを受ければ再就職も十分可能ですからね。