そして単独行動も賢くない。いち早く内輪の情報を手に入れ、非公開のルートで与えられる内定を狙う。
そうして賢い就活生は大学3年、修士1年の12月ごろまでに就活を終えている。「匿名で群れる」と悪い言い方をしてしまったが、最も賢い学生たちだからこそ、匿名で群れるのだ。
就活で苦戦する学生は、就活コミュニティに属さず、話題に触れもしない。それは夏休みの宿題を後回しにする感情と似ている。そして就活で苦戦する学生はリクナビ・マイナビがオープンしてから就活を考え始める。本当は彼らが走り出す前から内定は出ているのに、だ。
目次【クリックして移動できます】
匿名だから生まれる「勝ち組」「負け組」論争
だが、匿名コミュニティにはデメリットもある。たとえば、醜いマウンティング合戦だ。とうてい現実の友人には言わないであろう「〇〇へ就職するやつは負け組」「あんなところに就職して恥ずかしくないのか」といった論調がクローズド・コミュニティではまかり通る。かつて2ちゃんねる(現:5ちゃんねる)でやりとりされていたような醜い争いは、いまは会員制の就活コミュニティや、匿名のTwitterアカウントで起きている。
最初は賢い学生ほど、こういった情報を受け付けない。自分に合った企業を見つけるのが最適だと知っているはずだ。しかし勝ち組、負け組といった情報に触れ続けると徐々に価値観は内面化されていく。
たとえば、初対面で「どこに内定してるの?」と質問するとき、ついその奥底で『あっ、負け組と言われているところだ』と考えてしまう。自分はバカにしたくないと思っていても、周りが陰口で「あんなとこ行くなんて」と言っていると、同調してしまう。就活前はそんなこと、思いもよらなかったはずだ。
就活で「勝ち」「負け」を意識する無意味さ
だが、就活の「勝ち組」「負け組」にはほとんど意味がない。たとえば、私は2012卒である。就活を始めたのは2010年の秋ごろで、当時は「東芝」「東京電力」が最高の職場とされていた。
リーマン・ショックで内定後の取り消しが相次いでいたあのころ、すがれるのは日系の安定していそうな企業ばかりだった。
インフラ、公務員への応募が殺到し、外資へ行く人間はマイノリティだった。キツい職場でも絶対にリストラされないと評判のメガバンクも大人気で、UFJ、みずほ、三井住友がコーポレートカラーにちなんだ「赤・青・緑」と隠語で選考状況をやりとりしていた。
だが、その後たった数年で東芝と東京電力がどうなったかは全員が知るところだろう。メガバンクはリストラを始めた。いまの学生は、「終身雇用が終わった」と強く感じており、つぶしの利くキャリアを探している。
そして「安定してつぶしの利きそうなキャリア」として、外資コンサルを志望する。もしくは、まだリストラの影が見えない総合商社へ殺到する。2012卒と2023卒、安定を求めての行動をしているのは同じだ。しかし人気企業の一覧はがらりと姿を変えた。
「勝ち組」にこだわっても、その誇りは5年と続かない
こうしてみれば、「勝ち組」「負け組」の内定先といった価値観がいかに短期的な視野にもとづいているかわかるだろう。たとえその場で勝ち組と言われている企業へ入ったとしても、その栄誉が続くのは5年程度。5年後、10年後のコンサルタントの価値はわからない。
すでに外資系コンサルティングファームの現場では、こんな声が聞こえる。
―採用人数を増やした結果、内定へのハードルは下がっている。けれど中で求められる仕事の質が変わったわけではない。だから入社してから血反吐をはく思いで苦労する新入社員の比率が増えただけ。ついていけないからと、短期離職も増えている。だから結局、コンサルタントとしてバリューを出せるのは一握りなのは、昔も今も変わりない。
学生からの就活相談を聞いていても、「経営陣にバシっとかっこよく物申してみたいんですよ」とペラペラの志望動機でコンサルタントを志望する学生が増えた。採用数が増えたのだから仕方がないが、この動機で仮に入社できたとしても、理想と現実のギャップに苦しむだけだろう。
しかもこれから5年、10年たって「コンサルタントになるやつなんて終わってる」と言われる時代がきたら、「勝ち組」を志した学生のプライドはズタズタになるだろう。いま30歳以上で活躍している外資系コンサルタントは、コンサルタントが日の目を見る前から仕事自体にやりがいを覚え、生き延びてきた層だ。仕事の過程にやりがいを感じる層と、ステータスにやりがいを感じるのではモチベーションが大きく異なる。後者は、コンサルタントとして長くもたない。
「勝ち組」「負け組」にこだわるとジョブホッパーになる
そして何より、「勝ち組」志向になると、そのクセが抜けにくくなる。世間からちやほやされるキャリアをもとめ、転職したくなるのだ。決して転職自体に問題があるわけではない。だが、ちやほやされるため、勝ち組として扱われるための転職をすると、経歴に一貫性がなくなってしまう。
転職エージェントでは、こんな話を聞く。
―コンサルタント、財務、マーケティングなどあまりに短期間で職種が変わりすぎている方はご紹介が大変になってきますね。20代は問題ないのですが、たとえば35歳を超えて3職種以上を経験されているとどのスキルも中途半端に見える恐れがあります。転職回数が多くても一貫性のあるキャリアがあれば、積み上げで次のステップをご紹介できるのですが……。
外資のマーケターからライターになっている私の言えた口ではないが、あまりに突飛な職種転換は「なぜ?」「どの分野でもプロフェッショナルではないのでは?」と疑念を抱かせてしまう。結果、昇進が遅れたり、キャリア迷子になりやすい。今は売り手市場だから転職自体はできるかもしれない。しかし不景気が一度襲い掛かれば、こういった人材に紹介できる案件がなくなってしまう。当初は勝ち組志向だったはずが、本人が望まぬ形で負け組ルートへ流れてしまうのだ。
「勝ち組」を意識し始めたら、コミュニティから距離を置こう
もし、就活を始めてから「勝ち組」「負け組」あるいは「就職偏差値」といった単語が気になりだしたら……。一度、就活コミュニティから距離を置いたほうがいい。街をぶらぶら散歩してみよう。ビルの窓に光がともっているだろうか。ショッピングモールに働く人はいるだろうか。その数だけ、人は働いているのだ。そこに勝ちも負けもない。
年収、転職しやすさといった現実的なメリットで就職先を絞り込むのは、とても大事なことである。私は新卒の内定先に悩んだら年収で選べとアドバイスするくらいだ。上司はどうせ選べないし、社風なんて社長の代替わりで変化していくものだから。
しかし、勝ち組、負け組という言葉はただのイメージにすぎない。高収入とすらリンクしていないことがある。あいまいなイメージ、それも5年ともたない虚像を抱えるくらいなら、自分が思い切り評価されて、世間からなんと言われようと仕事をしているだけで楽しいと思えるような職場を探してみてほしい。
たとえばロジカルシンキングやプレゼンが苦手な人はコンサルタントへ行っても苦労するだけだろう。それよりは共感力や協調性を活かせる営業や経理、人事などの仕事を目指したほうがいい。逆に協調性が全くない人にとっては、接客は苦痛でしかない。
人には苦手・得意分野がある。「なんでみんなこのことを褒めてくれるんだろう?」「自分にとっては当たり前でも、できない人もいるんだなあ」と思うくらいのことを仕事にしよう。それが楽しくて、活躍できる仕事と最も近いところにあるのだから。