「○○ハラスメント」という言葉があちこちで指摘されるようになりました。
セクハラ、パワハラ、マタハラ、アカハラ・・・。
優越的な地位を利用して圧力をかけるのは、これまで以上に周囲の目が厳しくなっています。
残業のあまりの多さに、心身を崩す人が増えて、その温床となる長時間労働の改善に国を挙げて取り組まなくてはならなくなりました。
これが「働き方改革」です。
その中で「早く帰れ、残業をするな」と圧力がかかり別な問題も出てきているのが現状なのでは?
こういう会社の社員へのプレッシャーは「時短ハラスメント、通称「ジタハラ」と呼ばれています。
時短ハラスメントはどういう意味なのか?対策は?相談はどこにしたらいいの?
など今回はジタハラについて考えて行きましょう。
時短ハラスメント【ジタハラ】を知るメリット
- ジタハラの定義をまず理解します
- ジタハラ解消のため、個人でできること、できないことがあります(個人だけでは改善できません)
- 持ち帰り残業について残業代を請求できるケース、できないケースを知ります
- 残業ナシで繁栄している会社の事例を知ります
- ジタハラ相談窓口について理解できます
目次【クリックして移動できます】
時短ハラスメント【ジタハラ】とは?その意味は?
「ジタハラ」(時短ハラスメント)とは、「形だけの働き方改革を会社が進め、なにも合理的な対策をすることなく、トップダウンの指示のもと「とにかく残業を減らせ!」という表面上の名目で、特に仕事が早く終わるわけでもなく、ただただ早く会社から帰される」というハラスメントです。
仕事がないのに付き合いで残らざるを得ないような環境にいる人は、定時に早く帰されるのはありがたいのですが、時間内に終わらない業務量を与えられて、「とにかく帰れ」と言われるのは仕事をしている立場とすれば「どうすればいいの?」とものすごくプレッシャーがかかります。
もちろん「帰れと言われたのでこの仕事はまだできていません」⇒上司「そんなの許さん!」というコンボになります。
本来は社員の健康とワークライフバランスのため(目的)に残業を減らす(手段)はずなのに、「(見かけ上の)残業時間を減らす」ことが目的になってしまっています。日本によくある手段が目的になってしまう事例でしょう。
時間外労働削減のための各企業などの取り組み
「働き方改革」の発端の1つである電通の超時間外労働ですが、改善策として「22時から6時までは完全消灯」という対策がニュースになりました。
その他にも公務員の世界でも(公務員は労働基準法対象外です。別途「公務員労働法」が規定されています)、東京都庁などで20時消灯などの取り組みが始まっています。
※東京都が「20時00分完全退庁」「残業削減マラソン」への取組強化を発表
これがジタハラの温床になっています。
時短ハラスメント【ジタハラ】の原因と結果
「帰れと言われているに、仕事が終わらず帰れない」というジタハラの原因は以下の3つに集約されます。
- 経営者、上司が業務の効率化を進めない
- 顧客が「明日までに」など無茶な要求をしてくる
- 社員がだらだらとした仕事に慣れてしまったor時間内に終わらせる能力がない
しかし、この状況でも「早く帰れ」を実践しようとすると、以下の2つの結果になります。
ⅱ)タイムカードを(定時に)押してそのまま残業する
ⅱ)は昔からあった見かけ上の残業減らしで、これは消灯すれば仕事自体を社内でできなくなるので、そこまで大事にはなっていないようです(そもそもブラック企業の古典的な手法ですし、上からの指示でそうさせるわけです)。
ジタハラで問題になっているのは、無理やり社内から追い出され、結果的に家に持ち帰ったり、レストランやカフェで残業をせざるを得なくなったりしてしまっているという状況です。
持ち帰り残業に残業代は付くのか?
会社の規則で消灯になったりオフィスを追い出されたりして、否応なく持ち帰り残業せざるを得ない場合、その分について時間外手当の請求はできるのでしょうか?
答えは「状況によっては残業代が出る」です。
実は持ち帰り残業の残業代については、裁判にもなっています。
- 持ち帰り残業をせざるを得ない状況だった
- 持ち帰り残業について「使用者(上司)の指揮命令によるもの」だった
上記の場合、残業代を請求できます。
例えば、21時にクライアントからから依頼が来て、上司から「明日朝までに仕上げろ」という指示があり、かつ22時に完全消灯となる会社の場合は、持ち帰らざるを得ないですよね。
そこまで厳密でなくても
- 業務を期限までに終わらせないと、会社や人事考課上不利益な扱いを受ける
- 自宅に持ち帰って仕事をしないと、期限までに仕事が終えられない
- 自分が持ち帰り残業をしていることを使用者(上司)が知っていること
のいずれかを満たせば、残業代が請求できる可能性があります。
要は勝手に自己啓発のために、家で仕事に関する本を読んだ、それを残業代として請求するようなことはNGということです。
実際、筆者も最初の部署の時には、上司の指示で家で行った残業(家からクライアントに電話をする)についてはしっかり時間外として請求させていただきました。個人の時間を会社にタダで奪われるのは納得できるはずもありません。
時短ハラスメント【ジタハラ】のリスクを知ろう!SNSの反応は?
この矛盾が一番大嫌いだった
サビ残も無駄な残業もしないようにというのにその日に回らないような仕事を渡してくる結局みんなサビ残するしかないって諦め気味にやる https://t.co/5IFe3dNXkP
— 驀地ロージィ (@rosy_create) 2018年11月28日
>業務量の改善を行わないまま労働時間削減を強要する行為
ノー残業とか形式だけ真似てホワイトになった気でいるけど、
蓋を開けると実態はこうなところ多いよね…。 https://t.co/h3jhp3h1gK— 夜宵🌹美人画作家 (@Lotus_amethyst) 2018年11月29日
業務量は減らない。でも、時短は守らせる。これが、「働き方改革」の現実だと思います。
結局、労働者が効率的にできないのが悪いという、性悪説に基づいて企業は動くため、こんなことになるんですよね。
過去にしがみついた老害経営者たちが変わらなければ、真の「働き方改革」の実現は無理ですね… https://t.co/1qfoLotIE4
— ぽん乃助@HSP働き方戦略室 (@suke_of_pon) 2018年11月28日
個人でできる時短ハラスメント【ジタハラ】対策はあるの?
ジタハラ対策は個人だけでは限界があり、会社や上司、クライアントなども変わらなければ、本当の意味で時間外労働の削減にはならない、ということがわかりました。
しかし、多少なりとも個人でできることもあるはずです。個人でどういうことができるのか、考えてみましょう。
1.時間外労働は確実にメモしておく
職場のPCなどと連動している場合は、時間外労働がカウントされないシステムになっているところもありますが、メモや家のPCの記録でも時間外の証拠になります。
要は、残業代が出ないブラック企業の残業代請求策と同じことをします。
その時点で請求すると「そんなものは認められない!」と上司に言われるかもしれませんが、辞める腹が決まればいくらでも請求できるはずです。
2.労働組合などを通して業務量の改善等を求める
「自分の仕事は時間内に終わりません」ということを上司や経営者に伝えます。
とはいえ「君に能力がないからだ」で終わってしまうかもしれず、そういうときのために労働組合を活用しましょう。
まさか労働組合幹部も「君に能力が・・」とは言わないはずです(いくら御用組合であっても)。
人事に言える雰囲気であれば、「業務過多であること」を伝えて、人事課長と面談できれば仕事量などが変わるかもしれません。
3.ハラスメント相談窓口で相談する
ジタハラもパワハラやセクハラと同様に立派なハラスメントです。
というわけで、各所にあるハラスメント相談窓口に相談してみるのも1つです。
ただし、その窓口が強制力のある措置はできないことの方が多いでしょう。
4.自分の仕事の仕方を顧みる
自分だけ時間内に仕事が片付かない場合、ひょっとすると、本当に仕事の効率が悪かったり、能力が足りていなかったりするのかもしれません。
労働基準監督署への告発は期待できない?
職場の問題の相談窓口というと「労働基準監督署」(労基)が真っ先に思い浮かぶと思います。
会社で残業しているのに残業代が支払われない、有給休暇の申請をしているのに取れないなど、「労働法に書いてあることが順守されていない」事柄については、強力な指導ができますが、ジタハラは法律に規定されていません。
という事案には対応できますが
「早く帰れとうるさい、自分は少し残って自分のペースで仕事したいができなくてストレスだ」
ということについては対応はできないでしょう。
社長が徹底的に残業ゼロを続けた会社にヒントが!
ジタハラではなく、社長が率先して時短、残業ナシを進めた会社の例を2つ紹介します。
1.残業ゼロ記録を更新中「アクシア」
社長のブログが話題となっているIT企業です。
この社長は、何があっても、社員が懇願しても、絶対に残業をさせないことを徹底しています。
クライアントが急かしてきたら「わが社は残業しないのでできません」と突っぱねていきます。
「お客様は神様」精神を否定し、とにかく、絶対に残業をさせません。
結果として
- 無理な要求をするクライアントは消えて、優良クライアントだけが残った
- 残業したい派の社員は皆辞めていった
- 売り上げが増えた
となりました。
ここまで徹底すると、クライアントも「アクシアさんは残業ないんですよね。
だから納期は1週間後でいいです~」と勝手に配慮してくれるようになるそうです。
一切の例外を認めないのがポイントです。
また、「残業ナシ」に惹かれて中途入社する社員も「本当に残業をしたくない人」と「実は多少の残業をしてだらだら仕事をしたい人」に分かれるようで、この会社は一切の残業を認めないので、後者は耐えられずに辞めていくそうです。
2.残業ナシの老舗「トリンプインターナショナルジャパン」
下着メーカーのトリンプも残業をしない会社として有名です。
実は筆者も新卒の就活で、最初に説明会に行ったのがここで、当然採用選考を受けました。
当時の社長だった吉越浩一郎さんによって、残業改革が進みました。
「残業ゼロ」に向けて社員の能力を引き出す方法――元トリンプ社長の吉越氏
残業ナシのポイントは
- 社長などが19時に電源を落とす
- 毎日2時間「がんばるタイム」を設けて、私語や電話応対の一切を禁止する
- 19時まで残業した場合、残業代が出るが、その分部署全体のボーナス原資が減る
というものです。
自分だけ残業するからいいや、という社畜は、部署全体のボーナスを減らすことになります。
日本人が大嫌いな「みんなに迷惑がかかる」という状況にさせて、抜け駆け残業を抑制します。
「がんばるタイム」は最近では他社でも導入されてます。
自分の仕事だけに没頭して電話も出ません。
これも徹底すると「この時間はトリンプさんは「がんばるタイム」だから電話しても意味がない」と勝手に配慮してくれるようになります。
この検査は、根気や集中力を見るもので、注意力散漫でがんばれない筆者はここで落とされました。
つまり、「がんばるタイム」に本当に集中してがんばれない人はいらないし、業務が遂行できないというトリンプの考えなんです。
残業を減らすためには、業務の生産性を高めるのはやはり重要なことで、だらだらと仕事をして終わらないのは言い訳にならない、ということでもあります。
1と2の事例からわかるのは、トップが「残業しない」「残業させない」という強い意志を持って、それを曲げずに取り組めば、残業前提のクライアントや社員は自然と消えて行って、理解してくれる人だけが残ります。
ジタハラの解消のためには個人では限界があり、また、経営者や上司の管理能力や個人の能力も関係するため、パワハラやセクハラのように全体NGのラインが見えにくいのも事実です。
何をどうやっても業務量が減らず、ジタハラが改善されないならば、転職を決めて、退職願と一緒に、持ち帰り残業分の請求をたたきつけて辞める、というのが正しいかもしれませんね。
筆者の事例
筆者が壊された出向先ですが、過去にサービス残業の嵐の中で、労基に通報されて処分が下ったことがあります(未払い賃金は全額支払うことになった)。
以後、無言で17時にみんな押していたタイムカードは、各自のPCと連動した出退勤システムに変わり、残業についてはかなりうるさくなりました。
しかし、Yという出向先社内で出世街道に乗っていた課長は、部署の部下に金曜の夕方に「月曜日までにやっておけ」と仕事を出して帰っていたそうです。
社内での残業はPCと連動しているのでできず、週末に家でやらざるを得なかったと聞きました。
そういうサイコパスが上司だと、ジタハラ待ったなしだと言えるでしょう。
Yは管理職なんだから、残業代がつかず自分で全部やればいいと思います。
ジタハラとはまとめ
時短ハラスメント【ジタハラ】とは? まとめ
- ジタハラとは時間内に終わらない量の仕事を振られて「残業するな、帰れ」と圧力がかかるハラスメント
- 当人の業務改善ではどうしようもない部分があり、経営者、上司、クライアントの意識改善ができないと時短は絵に描いた餅になる
- 「残業ナシ」を成功させている会社は社長の「意地でも残業しない、させない」という強い意志がある
- その過程で無理強いするクライアントは消えて、優良な残業ナシでも大丈夫なスケジュールをくれるクライアントが残る
- ただし、集中力を持ち時間内にがんばれない社員は非常にキツイ
- 持ち帰り残業した場合、残業代を請求できるケースがあるので記録しておく
- 社外の相談窓口も積極的に活用する。ただし、労基は法に絡まない問題については頼りにならないこともあり、ジタハラはケースによって微妙である