薬剤師の女性にとって、産休・育休の取得とワークバランスは切っても切れない関係です。
なかには、薬剤師の産休・育休事情について詳しく知りたい方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは、薬剤師の産休・育休の傾向と取得時の注意点について解説していきます。
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薬剤師は産休・育休が取りやすい?
結論からいうと、大手の病院や調剤薬局、ドラッグストアであれば薬剤師は比較的産休や育休が取りやすいです。
また、派遣薬剤師だと育休や産休が取れないと勘違いしている方も多いのですが、一定の条件を満たしていれば派遣薬剤師でも問題なく育休や産休を取ることができます。
一方で少人数でいつもカツカツで回しているような薬局だと、制度としての育休や産休はあっても、実際は取得しにくい傾向が続いています。
薬剤師が産休・育休の取得で知っておくべき知識
産休・育休を取得する際の流れ
産休・育休を取得する際は、妊娠が発覚した時点でまず勤務先に報告を行い、取得の手続きを進めていきます。
勤務先によって異なりますが、直属の上司または事務へ期限までに書類を提出する必要があります。
パート、アルバイト、派遣の薬剤師でも産休・育休の取得は可能
正社員の薬剤師だけではなく、パートやアルバイトとして働いている場合であっても条件を満たせば育休産休を取得する事が可能です。
もちろん、派遣薬剤師も同様に勤務している派遣会社の条件を満たせば取得することができます。
産休・育休を取得する条件
産休は、労働基準法に定められた労働者の権利であり、ワークスタイル問わず、すべての労働者が利用できます。
育休の取得については下記のような条件があります。
- 原則として1歳に満たない子を持つ男女労働者
- 同一の事業主に1年以上継続して雇用されていること
- 子が1歳6か月に達する日までに、労働契約(更新される場合は、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと
これらの条件を満たしていれば、パート・アルバイト・派遣社員でも育児休業を取得する権利を得ることができます。
一方でいわゆる日雇い労働者、労使協定で育休を取得できないことが定められた労働者については、育児休業の対象外となります。
産休・育休の期間
産休は、産前休暇として出産予定日の6週間前から取得することが認められています。育児休暇は、原則として1年間です。
しかし、保育施設の入園が出来ないなどの場合は申請を行うことで最長2年まで延長が認められるケースもあります。
(以前は最長で「子どもが1歳6ヶ月になるまで」でしたが、平成29年3月の育児・介護休業法改正により「最長2年まで」に延長されました。)
薬剤師の育休取得率
平成29年度雇用均等基本調査より、薬剤師の育児休暇の取得率は女性で83.2%、男性は5.14%と発表されました。
特に薬剤師の女性の場合は大多数が育児休暇を取得していますが、男性で育児休暇を取得する人はまだまだ少数派のようです。
産休・育休の取りやすい薬剤師の職場
大手の調剤薬局
大手の調剤薬局では、女性の薬剤師も多く活躍しています。
そのため、産休・育休制度の他にも産後のキャリアアップ制度や男性の産休・育休取得制度も整っている調剤薬局もあります。
その他にも大手の調剤薬局のなかには、育休復帰後の勤務時間を最大2時間短縮出来る制度を実施しているところもあります。
しかし、派遣薬剤師として調剤薬局に勤務する場合は、派遣紹介先からの福利厚生を受けるシステムになっています。
そのため、派遣先が大手調剤薬局であっても、派遣会社の規約に従って産休・育休を取得していく流れとなっています。
製薬会社などの企業薬剤師
製薬会社の中には、優秀な子育てサポートとして、厚生労働省から「プラチナくるみん」の認定を受けている企業もあります。
「プラチナくるみん」は、一般的な産休・育児制度よりも、先進的な内容を実施している企業などが評価され認定される制度です。
また、製薬会社の多くは育児短時間制度を導入しています。そのため、通常では残業が多い製薬会社の場合であっても、負担にならずに職場復帰ができます。
大手のドラッグストア
ドラッグストアは、資本金が小さい企業が少ないため、福利厚生が充実している企業が多いです。
また、比較的ドラックストアは女性が多い職場になります。
そのため、子育ての先輩からからの理解もあることが多く、フォローを受けることができます。
また、店舗数の多いドラックストアの場合は、通勤時間を短くするために別店舗に異動するなどの融通を利かせてくれることもあります。
大規模な病院
大規模な病院の場合は、産休・育休制度が充実しており、希望者は産休・育休を100%取得する事が出来ることも稀ではありません。
そして、大規模な病院の場合は、敷地内保育園や敷地外に系列の保育園を完備しているケースが多いです。
そのため、待機児童の問題で育休明けから職場復帰ができないなどの問題は少ないでしょう。
病院での夜勤業務をする場合も、夜間対応が出来る託児所もあることがあります。
薬局やドラッグストアより転職しにくいのが難点ですが、産休・育休の取りやすさでは非常に優秀な職場でしょう。
公務員薬剤師
国が産休・育休の取得や、産後の女性のキャリアアップを支援しているため、公務員薬剤師は育休産休を取得しやすいといえます。
そのため、産休・育休にあったての福利厚生が手厚いでしょう。
公務員薬剤師の場合は、男性でも育休を取得しているケースもあります。
先輩ママ薬剤師の多い職場
薬剤師の人数が少ない職場であっても、先輩ママ薬剤師がいるか職場は有給の取りやすさが大きく変わってくるでしょう。
産休・育休のタイミングで仕事を辞めた場合であっても、子育て経験者が多く、理解の深い職場であれば仕事復帰もしやすく、働きやすいです。
薬剤師が産休・育休を比較的取得しにくい職場
前述のように育休や産休が取得しすい職場もあります。
その一方で、産休・育休制度が充実していないため、比較的産休・育休を取得しにくい職場もあります。
個人薬局
個人薬局は大手の調剤薬局に比べて福利厚生が手厚くない場合が多いといわれています。(もちろん、個人薬局であっても産休・育休制度が整備されている薬局も存在します。)
また、個人薬局によっては産休・育休制度について明確な規約を作成していない場合もあります。
小規模のクリニック
小規模のクリニックの場合は、過去に産休・育休制度の取得実績がなく、産休育休が取りにくい雰囲気になっている場合があります。
個人経営のクリニックによっては、院長が事務や経理も担当していることがあり、院長の考えによっては産休・育休制度を取得しにくいこともあるので注意が必要です。
また小規模なクリニックでは、基本的に薬剤師が1人で常駐していることがほとんど。代わりの薬剤師がいないという理由で、薬剤師が産休・育休を取得しにくい状況になりがちです。
産休・育休中の薬剤師の給料の支給額
産休の間に受け取ることのできる給料の金額は、産休前の支給額の約半分ほどが得られます。
育休の場合は、育休開始から6ヶ月間までは月給の2/3が支給されます。
7ヶ月目以降から会社復帰までは、月収の約半分が支給されます。
出産時に活用できる手当金・給付金
産休・育休をフルで取得する場合は、長期間働くことができません。産休・育休中の生活費はどうしようと思い悩む方は、少なくないでしょう。
出産の際は、手当金や給付金がもらえる制度があるので、忘れずに手続きを行い、活用するようにしましょう。
出産時に活用できる主な手当金・給付金は下記の通りです。
出産手当金
出産手当金は、産休によって仕事を休み給料がもらえない期間に健康保険から支給されます。
出産手当金は、出産前の42日間と出産後の56日間のうちで仕事を休んだ日数が支給対象です。
出産手当金は以下の方法で計算されます。
複雑な計算式ですが、給料の約3分の2が支給される仕組みとなっています。
出産育児一時金
1児を出産するにつき42万円が支給されます。
出産育児一時金も健康保険から支払われる給付金です。
育児休業給付金
育児休業給付金は、育休中に休業前の賃金の67%相当額が支給される制度です。
育休を取り始めて6か月が経過すると支給される額は50%となります。
育児休業給付金は、雇用保険から支払われる給付金で、受給するには育児休業開始前に一定以上の就業日数があることが必要です。
つまり、転職してすぐ産休を取得するようだと、この給付金は受け取れません。
児童手当・特例給付
児童手当は子育て世代の生活安定に寄与することを目的とした給付金です。
子どもが0歳~中学卒業までの間、受け取ることができます。
年齢・出生順ごとの児童手当の受取額は以下の通りです。
- 0歳~3歳未満:15,000円(一律)
- 3歳~小学生:10,000円(第3子以降は15,000円)
- 中学生:10,000円(一律)
児童手当の受け取りには保護者の所得制限があり、所得制限限度額以上の収入がある家庭には「特例給付」が支給されます。
特例給付は児童1人につき5,000円(一律)となります。
児童手当・特例給付は、お住まいの市区町村での手続きとなるので、出生届の提出と合わせて手続きを行うことをおすすめします。
社会保険料の免除
産休・育休を取得している間は、健康保険料と厚生年金の料金が免除になります。
免除期間は、社会保険料の支払いはありませんが、健康保険料と厚生年金は支払ったという扱いになるので心配は必要ありません。
産休・育休が取得できない薬剤師はどうするべきか
薬剤師の職場のほとんどは、産休・育休制度を取得しやすい環境となっています。
しかし、前述の通り規模の小さなクリニックや個人経営の調剤薬局などは、取得ができない場合があります。
その場合は、転職をして育休や産休を取りやすい働き方に変えることも一つの手段です。
転職する際は、育休取得のためには同じ事業主から1年以上雇われていることが条件になるので注意が必要です。
将来的に子供を産んで、産休・育休を取得して育てたいと考えている方は、事前のキャリア構築が必要になります。
薬剤師が産休・育休を取得する際の注意点
前述の通り、産休・育休を取得する際は、まず自分の勤務先の規定にそって手続きをすすめていく必要があります。
産休・育休中のお金の面も公的な助成金があります。では次に、その他に産休・育休を取得する上で注意しておくべきことについて解説していきます。
産休復帰後のために勉強をしておきましょう
医療業界は日進月歩の世界です。そのため、産休・育休中に新薬が発売されたり、調剤報酬改定があったりすることも珍しくはありません。
そして、産休・育休中に現場から離れるため、仕事内容を忘れてしまうことが少なからずあります。そのことに対して、復帰に向けて事前に最低限の勉強を行っておく必要があります。
産休・育休中に自分でコツコツ勉強しておくか、会社の研修を利用するなど、少しずつ知識を身に付けておきましょう。
ワークライフバランスを考えておく
自分自身が将来どのようなライフワークバランスを実現したいのかを考えておくことはとても重要です。
特に、子供がいるとなると今まで通り正社員で働くよりも、パートや派遣薬剤師として働いた方が自分と家族のライフワークバランスに合っている場合もあります。
以前勤務していた職場にそのまま戻るのももちろん良い選択でしょう。
しかし、派遣やパートなど他に自分の働き方に適した働き方がないかを一度考えておくことはとても大切です。
薬剤師の産休と育休まとめ
今回は薬剤師の産休や育休について紹介しました。
産休や育休は職場によって取得しやすさに天と地ほどの差がありますので、過去の取得実績などを事前に確認するのが重要です。
傾向として少人数の職場や個人薬局ほど産休を取得しにくい傾向にありますので、育休や産休を取得したいのであれば大手調剤薬局や企業薬剤師などを目指すと良いでしょう。