認定実務実習指導薬剤師は、薬学部が6年制となり、長期の実務実習が導入されるようになったことから取り入れられた制度のひとつです。
マネジメントや人材育成に興味がある人や、新たな資格取得を検討している人などにとって挑戦しやすい資格といわれています。
今回は認定実務実習指導薬剤師について、制度の概要や役割、資格の取得方法やメリットなどをご紹介します。
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認定実務実習指導薬剤師制度の概要
薬学生の実務実習の指導にあたる薬剤師を認定する制度
認定実務実習指導薬剤師制度は、実務実習を行う薬学生の指導にあたる薬剤師を認定する制度です。
薬学生は5回生になると、病院や薬局で長期の実務実習を行います。認定実務実習指導薬剤師は、実務実習において薬学生の指導を行う薬剤師に必要な資格として設置されました。認定実務実習指導薬剤師は、「指導薬剤師」や「認定指導薬剤師」と略されることもありますが、薬学生の実習指導に特化した資格と考えてよいでしょう。
認定実務実習薬剤師制度ができた背景
認定実務実習薬剤師制度が設置された背景には、薬学部の修業年限や薬剤師の資格取得条件が変更されたことが影響していると考えられます。
以前は4年制だった薬学部ですが、平成18年の入学から6年制へと変更されました。薬学部が6年制に変更されたのに伴い、薬剤師国家資格の受験資格も、6年制課程を卒業または卒業見込みの場合のみ付与されるようになりました。
さらに、病院や薬局での長期実務実習も導入されたことにより、薬学生を指導できる薬剤師の存在が必要とされるようになり、認定実務実習指導薬剤師制度の導入へと至りました。
認定実務実習指導薬剤師の設置は義務ではありません。ですが、厚生労働省では、薬学生のレベルを高めるためにも、実務実習を行う職場に対し、1人以上の認定実務実習指導薬剤師を配置するのが望ましいとしています。
認定実務実習薬剤師の役割
先輩薬剤師として将来の人材を育てる
認定実務実習指導薬剤師が担う役割のひとつは、将来の優秀な薬剤師を育成することです。具体的には、指導カリキュラムの作成や評価をはじめ、カウンセリングや実習生の精神的などのサポートを行います。
薬学生にとって実務実習は初めての現場経験です。指導役である認定実務実習薬剤師の存在は、もっとも身近な現場を経験している薬剤師であり、薬学生にとっては目指すべき薬剤師像にもなりうるでしょう。
認定実務実習薬剤師の行う指導や対応は、良くも悪くも実習に来た薬学生に対し影響を与えるため、担うべき役割は大きいと考えられます。対応次第では、薬学生のやる気や意欲をなくしてしまう可能性があるからです。
将来有望な人材を確保し、優秀な薬剤師を育成するためにも、認定実務実習薬剤師には薬学生が「こんな薬剤師になりたい」と思えるような指導力が求められます。
薬剤師としてある程度経験を積み、マネジメントや優秀な後輩薬剤師の育成に興味がある人にとっては、やりがいのある役割といえるでしょう。
通常の薬剤師としての業務もこなす
薬学生の指導を行うのが認定実務実習薬剤師の役割ですが、通常の薬剤師業務も並行して行います。薬学生から受けた質問に対し、分からないことは業務時間外に調べることもあるでしょう。
認定実務実習指導薬剤師になるには
病院や薬局で一定の実務経験が必要
認定実務実習指導薬剤師になるには、病院や調剤薬局で一定の勤務経験を積んでいることが必須条件となっています。その他、勤務先に応じて、実施されているほうが望ましい条件も設定されています。
認定実務実習指導薬剤師になるための必須条件
- 薬剤師として5年以上の実務経験(6年制大学を卒業した薬剤師は3年以上)
- 薬剤師として継続して3年以上(勤務時間が1週間あたり3日以上かつ20時間以上)、病院もしくは調剤薬局で勤務していること
勤務先ごとの望ましい条件
- 病院:薬剤管理指導業務の実施、院内処方箋発行の推進、病棟薬剤業務実施加算の届け出をしていることなど
- 薬局:薬学実務実習ガイドラインが求める地域保健、医療、福祉などに関する業務を積極的に実施していること、「健康サポート薬局」の基準と同等の体制を有すること、海底・薬学教育モデル・コアカリキュラムに示された領域に関する省令を実習できる体制があることなど
上記の条件以外に、薬学生に対する指導に情熱をもって、受け入れ期間中の指導が行えることや、実習の成果を適切に評価できること、などの基本的素養も求められます。
認定実務実習指導薬剤師資格を取得する方法
規定のカリキュラムを修了することが必要
認定実務実習指導薬剤師資格は、公益財団法人日本薬剤師研修センター(JPEC)が実施する所定の研修を受講し、申請すれば取得できます。試験や論文の提出、学会の発表などはありません。資格取得までの主な流れは下記の通りです。
- 薬剤師としての実務経験や勤務日数など、申請に必要な条件を満たす
- 参加型・体験型の研修としてワークショップに参加する
- 認定実務実習指導薬剤師養成講習会に参加する
- 必要書類をそろえて認定申請を行う
- 認定証が交付される
ワークショップは大学などを会場にして、毎月全国で開かれています。受講する際は、一般社団法人薬学教育協議会が認定しているワークショップを受講しましょう。
講習会は3種類の講座を受講する必要があります。
3種類とは
- 薬剤師の理念
- 薬学教育モデル・コアカリキュラム及び薬学実務実習に関するガイドライン
- 学生の指導(法的問題)、学生の指導(薬局関係)及び学生の指導(病院関係)
の3つです。
認定申請に必要な書類
認定実務実習指導薬剤師の認定申請には、以下の書類をそろえ、「公益財団法人日本薬剤師研修センター認定実務実習指導薬剤師認定係」に申請します。ワークショップの修了証や講習会の受講証も必要なのでなくさないようにしましょう。
- 申請書
- 履歴書
- 薬剤師免許証の写し
- ワークショップの修了証
- 講習会の受講証
- 認定通知用の通常ハガキ
- 申請料(税込5,143円)の振込
- 認定申請料振込明細の写し
認定申請が完了すると、認定者名簿に氏名と認定番号、勤務先が掲載されます。認定名簿は三カ月ごとの更新です。念のため、申請後は名簿に自分の名前が掲載されているかを確認しておくほうがよいでしょう。
認定実務実習指導薬剤師資格は6年更新
認定実務実習指導薬剤師の資格で注意したいのは、更新制であることです。1回の有効期間は、認定証の発行から6年間です。資格を更新するには認定期間中の指導実績や、実務に従事していることが条件となります。
認定実務実習指導薬剤師資格の更新条件
- 認定期間中に薬学生の指導実績が1例以上あること(実績がない場合はその理由や勤務状況の説明、今後の指導見込みを記載した書類の提出が必要)
- 認定期間中に3年以上(更新申請の直近1年以上)、病院か薬局に実務に従事していること
- 現在、薬剤師として勤務していること
- 更新に必要な講習を受講していること
条件を満たしている場合は、必要書類をそろえて申請手続きを行います。送付先は「公益財団法人日本薬剤師研修センター 認定実務実習指導薬剤師認定係」です。
更新申請に必要な書類
- 更新申請書
- 更新講習の受講証
- 履歴書
- 返信用の通常ハガキ
- 更新料の振込(税込5,143円)
- 更新料振込明細の写し
認定実務実習指導薬剤師資格を取得するメリット
自分自身のスキルアップにつながる
認定実務実習指導薬剤師資格を取得するメリットのひとつは、自分自身のスキルアップにもつながることです。薬学部は最新の医療情報に基づいた教育が行われるため、薬学生を指導するには、自分自身も最新の医薬品やガイドラインなどを理解しておく必要があるからです。
ワークショップや講習会に参加すれば、最新の医療情報に触れられます。研修を受ける中で、時代が求める薬剤師像を感じることもでき、薬剤師としての自分自身を見つめなおすことにもつながるでしょう。
薬学生の指導に自信を持って臨める
認定実務実習指導薬剤師の資格は、実務実習に来た薬学生の指導を安心して任せられる薬剤師であるという証明になります。
認定実務実習指導薬剤師の資格取得は義務ではないため、資格がなくても薬学生の指導はできます。とはいえ、通常業務をこなしながら、薬学生に何を教え、どこまで指導するべきか考えてスケジュールを組み、質問の回答や精神的なサポートまでするのは非常にハードです。
認定実務実習指導薬剤師の資格取得にあたっては、薬学生への指導方法や実習のカリキュラムについても講習で学ぶことができます。体系的な指導方法を学べることで、いざ薬学生を受け入れることになっても、自信を持って迎えることができるでしょう。
実際、資格取得をした人の中には、ワークショップや講習会で心理学を学ぶことにより、実習中の薬学生に対する精神的なサポートに役立ったとする意見もあります。
さらに、研修で身に着けた指導方法は、実習生だけでなく、職場の後輩指導にも活かせるでしょう。
コミュニケーション能力が向上すれば日々の業務にもプラス
認定実務実習指導薬剤師の資格取得は、職場内コミュニケーションにもプラスに働く可能性があります。資格取得のワークショップや講習会では、ほかの職種の人と連携して研修を行うこともあるため、自然とコミュニケーション能力の向上が期待できるからです。
職場によっては手当がつくことも
認定実務実習指導薬剤師の資格は、取得すると手当が支給される職場もあるようです。
資格を持ったからといって、直接年収アップにつながることはほとんどないようですが、職場からの信頼度アップや、薬学生を指導する際には役立つ資格といえるでしょう。
認定実務実習指導薬剤師資格取得でキャリアアップも
転職の際にも活かせる可能性あり
認定実務実習指導薬剤師の資格は、今後もニーズが高まると予想されます。
セルフメディケーションの推進により薬剤師の需要が安定して見込まれる中、優秀な人材を育成するために指導者が必要と考えられるからです。
資格を取得することは、自分自身のキャリアアップや転職の際のアピールポイントとして活用できるでしょう。
薬学生によっては、指導にあたった薬剤師の対応次第で、そのまま就職してくれることもあるため、良い指導をすることは病院や薬局にとってもプラスになるからです。
仮に薬学生の実習を受け入れ予定がない病院や薬局に転職するとしても、資格があることでマネジメント能力や後輩育成の実績があると認めてもらいやすいはずです。
求人探しは転職エージェントの活用がおすすめ
認定実務実習指導薬剤師資格を活かし、転職先を探す際は転職エージェントの活用をおすすめします。
転職エージェントでは求人探しから履歴書の書き方、面接対策や条件交渉など、専任のコンサルタントによる手厚いサポートが受けられます。
転職エージェントによっては非公開求人も豊富に扱っていますし、転職後のフォローまでしてくれる場合もあるので安心です。
認定実務実習指導薬剤師資格を活かせる転職先を探す場合も、コンサルタントに相談することにより、希望に合った求人を見つけやすくなるはずです。
認定実務実習指導薬剤師の役割は薬学生の実習指導
薬剤師としてのスキルアップや転職に活用できる資格
認定実務実習指導薬剤師は、薬学生が実務実習をする際、指導にあたる薬剤師です。資格取得には病院や薬局での実務経験が一定期間必要ですが、条件を満たせばワークショップや講習会を修了するだけで申請できます。ただし、更新制なので6年ごとに資格更新申請が必要です。
薬学生の指導は、認定実務実習指導薬剤師の資格がなくても可能です。しかし、薬学生の指導は実務だけでなく精神的なサポートも必要であり、通常の業務と並行して行うのはハードです。一方、認定実務実習指導薬剤師の資格では、研修で最新の医療情報や体系的な指導方法、心理学など幅広い分野を学べます。資格取得により、薬学生はもちろん、職場の後輩指導やマネジメントにも活かせることがあるでしょう。
認定実務実習指導薬剤師の資格は、取得したからといって直接給与や年収アップに結び付くとは限りません。ですが、転職やキャリアアップを検討する際はアピールポイントのひとつになると考えられます。次世代の優秀な薬剤師を輩出するため、今後もニーズがあると予想されるからです。
資格自体は、試験や論文提出などの必要がなく、研修を受けるだけで取得できます。実務経験を積んだ中でやりがいを見つけたい、スキルアップを狙いたいと考えている場合は、ぜひ取得を検討してみてはいかがでしょうか。