派遣社員として働く場合、気になることの一つに社会保険の加入や有給、育休の取得があげられます。
これらは法定福利と言われるもので、それぞれの派遣会社が独自に提供する福利厚生サービスとは別に等しい条件のもとで必ず提供される”権利”です。
しかし、扶養の範囲から出ないように働きたいという方にとっては社会保険加入が絶対条件となると困ることになります。
そこで派遣社員として働く場合に気掛かりな、法定福利の加入条件や取得条件などを詳しくご紹介することにします。
派遣は社会保険や年金加入が絶対条件?
そもそも社会保険って何?
お気付きの方もいたと思われますが、年金制度は通常社会保険の中に含まれて表現されています。
しかし社会保険と年金制度を別物とお考えの方も大変多く、「社会保険」という用語だけでは年金については触れられていないとの誤解が生じやすいことからあえてこのようなタイトルにさせて頂きました。
では社会保険とは具体的にはどんなものから構成されているのでしょうか。
社会保険を構成する5つの保険
社会保険の構成でおわかり頂いたとおり、一般的に年金と言われている制度は「年金保険」とも呼ばれる制度なのです。
派遣社員が加入する年金保険とは?
社会保険の中で特に皆様が気掛かりな年金保険について詳しく見てみることにしましょう。
年金保険は大きく二つに区分することができます。
- 厚生年金保険:主に会社に勤務している方々が加入する公的年金制度
- 国民年金:主に自営業や短時間労働者の方が加入する公的年金制度
では派遣社員はどちらの年金保険に加入することになるかですが、結論から言えば「条件次第でどちらも加入可能」です。
派遣社員としての働き方次第となります。
厚生年金保険の加入条件
では厚生年金保険の方から具体的な加入条件を確認することにしましょう。
正社員と同様な勤務シフトで働いている派遣社員の方であれば「常用雇用者」となりますし、パート従業員のように短時間労働主体で働いていれば「短時間労働者」となるだけです。
常用雇用者の厚生年金保険加入条件は?
まず常用雇用者の加入条件は次のとおりです。
- 雇用契約期間:2ヶ月を超える、または2ヶ月を超える見込みがある
- 週の所定労働時間:通常の社員の3/4以上の時間数
- 月の就業日数:通常の社員の3/4以上の時間数
- 年齢:70歳未満
雇用契約期間は2ヶ月超の契約であれば就業開始日から対象
常用雇用者の加入条件をもう少し詳しく確認することにしましょう。
加入条件の一つ目である雇用契約期間ですが、「2ヶ月を超える見込みがある」となっているとおり、派遣社員として2ヶ月働いていなかったとしても派遣契約が3ヶ月となっていれば2ヶ月を超えて働くことが明白とみなされ、雇用契約期間の条件を満たしたことになります。
週の所定労働時間:通常の社員の3/4以上の時間数
派遣社員とは派遣会社の社員として働く立場ですので、ここでの通常の社員とは派遣先ではなく「派遣会社の正社員」が基準になります。
正社員は通常週40時間が法律上の最大労働時間数となりますので、40時間の3/4以上は「30時間以上」となります。
つまり派遣先で週30時間以上働いているのであればこの条件も満たしたことになります。
月の就業日数:通常の社員の3/4以上の時間数
月の就業日数も「派遣会社の正社員」が基準になります。
派遣社員の方が派遣先で月間15日以上勤務している場合には、この条件も満たしたとなります。
年齢:70歳未満
これは一目瞭然ですね。
現在70歳未満であれば、年齢上の条件はクリアとなります。
常用雇用者としての加入条件のまとめ
まとめますと70歳未満の派遣社員の方が
- 2ヶ月を超える「契約期間」を結んでいる
- 月間あたり15日以上働く条件になっている
- 週あたり30時間以上働く条件になっている
であれば厚生年金保険対象の「常用雇用者」となり、厚生年金保険に加入できる・・・と言うより加入しなければなりません。
もしこれらの条件を一つでも満たさなければ、常用雇用者として厚生年金保険に加入は回避できます。
従って月間15日未満にする、週あたり29時間以下で働くよう調整すれば「常用雇用者として厚生年金保険に加入する」必要はなくります。
ただし、例えば働く時間数を29時間にすれば大丈夫かと言いますと、実はそう言い切れないのです。
厚生年金保険に加入したくなければ「常用雇用者」だけでなく、「短時間労働者」の条件にも当てはまらないようにする必要があるからです。
短時間労働者の厚生年金保険加入条件は?
短時間労働者の方が厚生年金保険に加入する条件は、「月の就業日数」で条件がある場合とない場合の二つに分けることができます。
(月の就業日数に条件がある場合)
- 雇用契約期間:1年を超える、または1年を超える見込みがある
- 週の所定労働時間:通常の社員の3/4以上の時間数
- 月の就業日数:通常の社員の3/4未満
- 年齢:70歳未満
- 月額収入:8万8千円以上
月の就業日数に条件がある場合について
常用雇用者の違いは雇用契約期間が「1年」となっている点です。
派遣社員になったばかりの方が「3ヶ月」という契約期間で派遣業務をスタートさせたとしても、短時間労働者の加入条件には該当しないことになります。
しかしこの点は時間の問題です。
派遣社員を続けていれば、やがて雇用契約期間は1年を超えることになります。
また、週の時間数が週30時間以上となれば短時間労働者の加入条件を満たすことになりますので、加入したくない方は時間数を減らす必要が生じます。
では29時間以下にすれば大丈夫かと言いますと、今度は「月額収入:8万8千円以上」が立ちはだかることになります。
月額8万8千円は仮に時給千円で働いたとしても総時間数88時間で到達しますので、週あたりでは約22時間となります。
時給千5百円の場合なら、週あたり約15時間しか働けません。
厚生年金保険に加入されたくない方は時給を踏まえた上で、月額8万8千円未満となるよう時間数を調整する必要があるのです。
月の就業日数に条件がない場合
- 雇用契約期間:1年を超える、または1年を超える見込みがある
- 週の所定労働時間:週20時間以上通常の社員の3/4未満の時間数
- 年齢:70歳未満
- 月額収入:8万8千円以上
月の就業日数に条件がない場合とは、極論すれば月間1日勤務でも加入対象となるということです。
月の就業日数に条件がある場合との違いは、月の就業日数以外では「週の所定労働時間」のみです。
週の所定労働時間とは具体的には「20時間以上30時間未満」ということですが、時給が仮に千5百円であれば月額収入8万8千円以上とならないようにすると必然的に週20時間を切ります。
月額収入の条件を満たさないようにすれば、多くの方が対象外になる条件と考えて良いでしょう。
まとめ:派遣社員の方が厚生年金保険の加入を回避できる条件とは
厚生年金保険に加入したくないという方は、要は厚生年金保険の常用雇用者、短時間労働者の「”両者の”加入条件」を満たさないようにすること、特に短時間労働者の加入条件を回避することです。
短時間労働者の加入条件を長期的に回避できる方法は、実はほぼ一つしかありません。
それは「月額収入を8万8千円未満に抑えること」です。
月額収入をそうした金額に抑制すれば他の条件はほぼ自動的にクリアできますが、月額収入だけは確保しつつ時間数や勤務日数だけで条件を回避することは困難だからです。
つまり8万8千円未満の月収で生活設計しても良いという方に限り、派遣社員であっても厚生年金保険加入を免れ、扶養範囲のまま働くことができると言えます。
派遣社員は有給、育休は取得できないの?
法律上の条件を満たせば取得できます
派遣社員の方が有給休暇や育休が取得できないということは法律上ありません。
派遣社員の方であっても労働者ですから、法律に従って有給休暇も育休も取得する「権利」が与えられています。
ただし取得には法律上一定の条件があります。
有給休暇の取得条件
どんな条件を満たせば良いかですが、まず有給休暇から申しますと次にご紹介する二点を満たせば良いだけです。
- 雇入れの日から起算して6ヶ月以上継続勤務すること
- 全所定労働日の8割以上出勤すること
労働日数や時間数によって取得できる日数は異なる
有給休暇は派遣社員の方は勿論、週1日しか勤務していないパート従業員の方も条件を満たせば対象となります。
ただし週あたりでどの程度働いているかによって、与えられる有給休暇の日数は異なってきます。
では週あたりの日数や時間で何日有給休暇が得られるかですが、次にご紹介する条件で二つに区分されます。
週あたりの所定労働日数が5日以上もしくは週あたりの所定労働時間が30時間以上
(取得できる有給休暇日数)
6ヶ月目 | 10日 |
---|---|
1年6ヶ月目 | 11日 |
2年6ヶ月目 | 12日 |
週あたり5日以上または30時間以上働いている方の有給休暇日数はご覧の通り最短6ヶ月目から有給休暇が発生し、1年毎に取得できる有給休暇日数が増え、最大で20日となります。
週あたりの所定労働日数が4日以下かつ週あたりの所定労働時間が30時間未満
(取得できる有給休暇日数)
6ヶ月目 | 7日 |
---|---|
1年6ヶ月目 | 8日 |
2年6ヶ月目 | 9日 |
週あたり4日以下かつ30時間未満の場合の有給休暇日数は、同様に1年毎に増加し、最大で15日の有給休暇が与えられます。
派遣社員の場合は非稼働期間の有無がポイントになる
ご紹介したとおり短時間労働者でも対象になることはおわかり頂けたと思いますが、派遣社員の方にとって週あたりの労働日数や時間以上に有給休暇取得において大きな鍵となってくるのが「稼働していない期間」が生じることです。
例えば2ヶ月フルタイムで働いたとしても、翌月1ヶ月間全く働かなければ有給休暇の取得条件は自動的に消滅し、次回働き始めてからのスタートとなることを是非おぼえておいてください。
有給休暇が消滅する非稼働期間は通常「1ヶ月」となっています。
従って派遣社員として派遣業務がスタートしたら、少なくとも6ヶ月間は1ヶ月以上の非稼働期間を作らないようにすることが有給休暇を受け取る重要な要件になると言う訳です。
育休の取得条件は?
続いて育休の条件をご紹介しておきましょう。
育休は次の3つの条件を満たせば派遣社員の方も取得可能です。
- 同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
- 子の1歳の誕生日以降も雇用されることが見込まれること
- 子の2歳の誕生日の前々日までに労働契約の期間が満了しており、かつ、 契約が更新されないことが明らかでないこと
上記3つの条件のうち、3番目の条件は表現が二重否定になっているためわかりにくいのですが、こちらは要は子供が2歳の誕生日を迎えても契約が続くことが見込まれる場合と解釈すればほぼ間違いありません。
派遣社員の方の取得ポイントは「契約」の反復性や継続性
育休の条件でおわかりになったとおり、育休取得のポイントは子供の誕生日などを基準日として長期間の労働契約が見込まれることです。
この点は具体例で説明した方が理解しやすいので、育休を取得できるとケースとできないケースを具体例でご紹介します。
育休を取得できる例
派遣先とは3ヶ月契約ながらすでに3度契約更新を行っている派遣社員の方を、仮にAさんとします。
契約期間は3ヶ月となっているものの、契約の更新や延長に対しては何ら制限は定められておらず、派遣先も契約を打ち切る申し出等を行っていなかったとします。
この場合であれば契約が更新された事実があり、且つ契約更新の上限もないことから「契約が更新されないことが明らかでないこと」に該当しますのでAさんは育休を取得できます。
尚育休取得可能期間は「子供が1歳になる誕生日前日まで」が原則的な最長期間ですが、特別な事情がある場合には最長1年半取得することが可能です。
育休を取得できない例
次に育休を取得できない例です。
派遣社員のBさんはAさん同様3ヶ月ごとに契約更新を行って派遣業務を継続してきましたが、契約では更新を行っても最長1年半で、それ以上の契約更新や延長は行わないことが明示されていたとします。
この場合Bさんは、もし現時点で子供を出産し育休を申請したとしても、その子の2歳の誕生日までは契約が更新されないことは明白ですので、育休は取得できないことになります。
もし取得したい場合には、子供が2歳の誕生日以降も契約が更新できるような条件に変更してもらう必要があります。
このように派遣社員の方々は「契約期間」というデリケートな問題が生じますが、要はご紹介した条件さえ満たせば育休は必ず取得できます。
従って、できる限り長期間の契約を締結できるよう派遣会社を通じた条件交渉を行うことが大切です。