労働契約申込みみなし制度とは
労働契約申込みみなし制度とは、派遣先が違反派遣に該当して派遣社員を受け入れた場合、直接雇用の申込みをしたとみなされる制度です(2015年10月1日施行)。
派遣社員は現状、派遣会社の見えないところで働いており、その実態について全てを把握できるわけではありません。その管理については派遣先に任されているため、派遣法について詳しくない(またはかなり詳しい)方は、派遣社員をぞんざいに扱ったり、禁止業務をさせている派遣先もあるのです。
これに対するペナルティとして、直接雇用の申込みをしたとみなす「労働契約申込みみなし制度」が適用されます。簡単に言うと、そこまでして働かせるということは自社の社員として雇用したいってことでしょ??という意味合い。しかしこの制度は、派遣先がその行為が違反派遣と知らずに(善意)、また過失なく行っていた場合は適用されません。
労働契約の申込みをしたものとみなされた派遣先は、その事由が終了した日から1年間、申込みを撤回することができません。言い換えれば、その申込みを受けた派遣社員は1年以内にその意思表示をすることができます。また仮に契約を切られたとしても、1年間は派遣先に直接雇用の申し入れが可能です。
派遣先に制度が適用される違反派遣について
労働契約申込みみなし制度が施行された理由は、今までの派遣法の内容では違反派遣に対して派遣先への罰則が行政指導中心になりがちで、「制裁が弱い」「派遣社員はただ職を失うだけ」という声が多く寄せられていたためです。この制度によって、制裁に対する効力強化と派遣社員の雇用安定を図ることが可能になりました。
ではどのような状況になれば、この制度が適用されるのか具体的に説明していきます。
派遣が禁止されている業務の就業
派遣が禁止されている業務は、港湾運送業務・建築業務・警備業務・医療業務・士業務があります。この業務を派遣会社から派遣することはできず、派遣先もこういった業務を行う派遣社員を受け入れてはいけません。
派遣資格を持っていない派遣会社からの派遣受入
派遣会社が派遣事業を行うには厚生労働省からの許可が必要です。無許可で派遣事業を行っている派遣会社から派遣社員を受け入れると、派遣先も連帯責任として制度が適用されます。
なお厚生労働省の許可を得ている派遣会社については、人材サービス総合サイトの「労働者派遣事業検索」で確認できます。
派遣期間の制限に関する違反
派遣の受入期間である最長3年(抵触日)を越えて、派遣先が派遣社員を雇用する場合に適用されます。期間の制限に関しては以下の場合でも適用されます。
- 一度決めた抵触日(3年以内のもの)について派遣先が意見聴取を行わずそのまま派遣社員を雇用したとき
- 意見聴取した過半数代表者が指揮命令者や派遣先責任者に当たる管理監督者であるとき
- 書類等に代表者選出であることを明示せずに意見聴取した場合
- 過半数代表者が管理監督者の独断で決められて明示されている
以上の内容は事業所単位で派遣期間を定めているときの場合です。個人単位で期間制限を設けているときは3年を越えて同じ派遣社員を同一業務で雇用していると、「派遣先が直接雇用の申込みをした」とみなされます。
偽装請負
最も考えられる例が、請負契約を行っている派遣先で別会社の方から指揮命令を受けることです。雇用契約書に明記されていない会社の方から指示を受けた場合、すぐに派遣会社に連絡し改善を図って下さい。
たとえ雇用契約書に明記されている指揮命令者から指示を受けていても、その指示全てが発注者(請負を依頼している会社)からの指示と同じだと偽装請負になります。
適用報告が少ないという実態
労働契約申込みみなし制度は派遣社員有利の、派遣社員を守るための制度です。しかしその実例・報告(実際に直接雇用された、など)が非常に少ない点で見ると、この制度の目的は派遣社員の直接雇用化ではなく、あくまで派遣先に対する法知識の徹底であると推測します。
たしかに、平気で法を犯すような派遣先から直接雇用の申し入れを受けても当人は全く嬉しくありません。仮にそこで働くことになっても、全てをその派遣先に握られるため更に劣悪な労働環境で働かされることが考えられます。制度概要だけを頭に入れておき、直接雇用を受け入れるかどうかは全く別の問題として理解すべきでしょう。また就業中「これって違反派遣じゃないの?」と思うことがあれば、すぐ派遣会社に相談し自分だけで抱え込まないようにしましょう。