ハケンの品格と実態との比較
派遣社員の方から受ける「ハケンの品格」に関する質問で、特に多いものを紹介していきます。
Q1:時給3,000円の事務の仕事なんて本当にあるの?
「時給3,000円の事務なんてあるわけがない」「SEや専門職でないと2,000円以上は無理」
そうした固定概念にとらわれている方が多いと思いますが、現実に3,000円以上の事務の仕事は存在します。ただし、関東・関西など首都圏に限定。そして、派遣の経験者であることが条件です。全くの素人、地方の案件だと物理的に難しくなります。
例えばリクナビ派遣で「時給3000円以上」「オフィスワーク・事務」「東京」という条件で検索すると、時期によって案件数は異なりますが、2017年8月28日現在、8件の派遣求人がヒットしました(実際の検索結果がこちら)。
仕事の特徴としては、ある一つのことだけをやってもらう単調作業というより、「こうした能力を持っている人に、◯◯に関する業務を総合的に行ってほしい」というプロジェクトに近いものが多い印象です。例えば1000円台の案件だと、たった一つのこと、例えばファイリングならファイリングだけ、データ入力ならデータ入力だけ、という機械的な仕事を淡々とこなすのが仕事でした。
時給が高くなると、契約内容も曖昧になり、「その他の業務」の幅がかなり広くなります。もちろん全く契約外のことをさせることはありませんが、ある程度仕事の許容、職種を越えた広い経験・視野・洞察力・判断力が求められるでしょう。
派遣社員に「責任を負わせる」ことは絶対にありませんが、「頼られる」ことは必然的に増えてきます。それに応えられる仕事のスキルが自分にないと会社には居づらくなります。
主人公の大前春子(篠原涼子)も、派遣先である株式会社S&Fでは、事務と言いながら様々な仕事をこなしています。ドラマなので少し広げすぎな印象もあり、具体的な契約内容に関しては細かく取り上げられていませんが、実際ここまで広く仕事を任せるということはないように思います。本来派遣社員とは、契約書に記載され同意したもの以外の仕事をやらなくてもかまいません。
Q2:派遣社員と派遣先の社員の恋愛って本当にあるの?
これは頻繁にあります。
特に、今までずっと調子がよかったにも関わらず急に「辞めたい」と言い出す派遣社員は、十中八九派遣先の社員との人間関係(色恋沙汰)が問題。
派遣先の社員にとっても、契約が切れればいなくなる都合のいい存在(声をかけやすい)。派遣社員にとっても、仕事の活力になり多少時給が低くても、仕事が辛くてもやり抜いてくれるコスパが良い存在。色恋沙汰が発展途上にある段階では派遣先と派遣会社に大きくメリットが築き上げられます。
しかしそれが一度崩れてしまったりすると関係修復は不可能。「もう会社に行きたくない」とバックレてしまう派遣社員がほとんどです。派遣先の上司にとってはその内情が全く掴みきれず、派遣会社との関係も最悪になり、今後派遣を使ってくれなくなってしまうこともあります。
色恋沙汰に発展しないようにするということは派遣会社側ではできず、むしろ「花嫁派遣」を意図的に狙って派遣に登録する女性も少なくない実態です。
Q3:派遣社員だけ社員食堂の値段が違うことなんてあるの?
一概には言えませんが、今ではそうした風習が消えつつあります。
作中では社員食堂のメニューが正社員の場合定価の半額で購入できるものの、派遣社員や外部の人間は定価で購入しなければなりませんでした。もっと悪い派遣先だと、派遣社員を社員食堂へ入室すらさせないところも存在します。
ただその習慣も、同じ職場で働く社員としてこうした露骨な差別的扱いを禁止し、実態として存在するならば派遣会社から指摘して改善を求めることもできます。配布される社員証にも、派遣社員なのか正社員なのか同部署の人しか分からないような形になったり、会社内の施設は全員平等で使用できるのが今の実態です。
仮にそうした派遣先が存在し、派遣先が派遣会社のマウントを取るような上下関係が出来上がっている場合、すぐさまその派遣先との契約を切るべきでしょう。
Q4:派遣35歳定年説って本当に存在するの?
こちらについては強く否定します。
確かに5~10年ほど前、つまり「ハケンの品格」がドラマとして実際に放送されていた頃は存在しました。しかし今の日本は危機的な人材不足が起こっており、高校生でも大学生でも、未経験の主婦であっても人がほしい状況にある企業で溢れています。
実際にシニア派遣という40歳以上の方を対象とした派遣会社や、未経験の女性・主婦を対象とした派遣会社など、女性、特にワーキングマザーや子育てを終えて一息ついている方を対象とした派遣会社が急激に増えています。
詳しい解説は以下の記事にまとめていますが、Qに対する答えとしては、派遣35歳定年説は時代錯誤の死語であるということです。
Q5:派遣の「品格」って結局なに?
派遣社員に「品格」などありません。ハケンの品格で伝えたい真のポイントはここ。派遣社員とは派遣会社の「商品」。商品が感情を持ち、派遣社員とはなんたるかを独自で展開するのは本当に時間の無駄です。この感覚を理解することができなければ、派遣を長く続けることは本当に難しくなります。
作中では再三に渡り「派遣社員のプライド・格差」について描かれており、大前春子がそれを一蹴しています。確かに道徳的ではないかもしれませんが、派遣社員として派遣先に売るべきものは、仕事の「技術」であって、派遣社員としての地位をその派遣先で確立させても、何も環境の変化はありません。むしろ自分が辛くなるだけなのです。